ムーランルージュ 公演情報 ことのはbox「ムーランルージュ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     途中、15分の休憩を挟み2時間35分の大作だが、一瞬たりとも目が離せない。ウクライナからの凄惨な報道を見るにつけ、戦争が炙り出すもの・ことの実質を描き深く考えさせる秀作である。観るベシ!

    ネタバレBOX

     敗戦直後焼け野が原の新宿には闇市が立ち、赤い風車のレビュー小屋が復活した。その名をmoulin rouge 新宿座という。小屋の名は無論、パリのピガールにあるmoulin rougeを真似て赤い風車を目印にしたが、戦争で破壊される前の小屋は1931年12月31日開館。今作で描かれるのは人々が戦後食うや食わずの生活を強いられた時期に再興され一世を風靡した再興後のムーラン。現在の新宿3丁目で軽演劇・レビューを中心に興業し実在していた小屋である。1951年に閉館した。
     脚本は、斉藤 憐さん。演出はことのはboxの酒井 菜月さん。板上はショーの時等に降りる垂れ幕を挟んで手前客席側とホリゾント側にほぼ2分割されており手前側壁に電話の載った机、椅子。上手垂れ幕の直ぐ奥に応接セット。その奥に2階へ上がる階段が設えられている。ホリゾント中央には、劇場を支える太い支柱が2本、その上手には大道具らしきもの、下手には平台が堆く積み上げて在る他、側壁脇にはこれも様々な大道具が整理された状態で置かれている。出捌けは垂れ幕を挟んで上手に2カ所、下手垂れ幕の下がる辺りに釣り物等の作業の際や、物干し用の柱として用いられる細身のpilier(柱)が1本立っている。
     オープニングではAIR FRANCEと大書された大きな箱が上手から入場、中から歌姫が飛び出し、箱を運び入れたミニスカートのダンサーたちの踊りを背景に歌い始めるというセンスの良さを見せ、いきなり劇空間に引きずり込む。衣装替えの素早さ、衣装自体のあでやかさ、歌う出演者の殆どが歌唱力の高さを示し、ダンサーたちの踊りもグー。また、垂れ幕にレビューに登場する演者たちの衣装の色に合わせた照明が当てられるのも演出のセンスを感じさせてグー。この華やかな舞台と対比されるかのように描かれるのが、後発でムーランの客を奪ったストリップ小屋との集客合戦に於ける劣勢、女優、ダンサーら女性と、執筆者、小家主、GHQの1セクションであったCIE(Civil information and Educational Section)の担当官、闇市をいち早く立ち上げた尾津組配下のチンピラら男とのジェンダー問題、嘗て植民地化され日本国籍を強要された朝鮮半島、台湾等の人々が解放され日本人には最早法的に彼らを処罰できなくなったこと等々と諸差別だ。戦争が炙り出した各民族の歴史と生活であれ、イデオロギーであれ裸形の生が繰り広げる争闘と其処に現出する現実の裂け目。戦前、戦中様々な言論統制下にあって尚、戦争の実質を深く見極めていた無頼派の代表的作家・太宰 治のような本来極めて真っ当でデリケート而も自己省察の鋭さに己自身を傷つけた魂が、遂には酒に溺れ、シャブに手を出し自壊してゆく様も座付き作家に仮託して描かれ、生活し愛する身内を養う為に職を選ぶ事が可能か否かのギリギリの選択を迫られる表現者達には、戦勝により日本を開放・民主化したハズのGHQの1セクションCIEによる検閲が為される。その一方でGHQに送られてくる2千万通にも及ぶ葉書・手紙の類中検閲対象としてピックアップされた4百万通中に1通もアメリカに対するレジスタンスの書面が無かった事等、恥ずべき事大主義者・日本人の姿が見事に浮き上がる。(この事実は要するに天皇に代わってアメリカが日本の神として崇められることになったということに他ならない)これらの点即ち戦争という大参事によって炙り出された事実にこそ、今作の眼目はあり、それを正確に見抜きこのような舞台に仕上げた“ことのはbox”面々の尽力に敬意を表したい。

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    2022/04/24 17:54

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    0

  • 皆さま
    レビューアップしました。ご笑覧下さい。
                ハンダラ 拝

    2022/04/24 19:37

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