#15『朱の人』 公演情報 キ上の空論「#15『朱の人』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    人間のエゴと演劇愛を描いた怪作、いや秀作だろう。観応え十分。
    自分の気持ちに正直に生きる、そのために生じる他人との摩擦や確執を、演劇という世界を通して見つめる人間ドラマ。心のあり様…説明にある「壊れて」は舞台美術を巧みに使い、視覚としても印象付ける上手さ。そして、コロナ禍における「演劇」を取り巻く状況も垣間見せるという、社会的な一面も切り取り厚みを持たせる。自分好みの公演!
    (上演時間2時間 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は物語の展開や状況に合わせて変わる。冒頭は、中央に主人公・御テツキの家庭。奥にレースカーテンのある両開き窓、上手奥は生演奏用(音楽・演奏:堀山峻紀サン)の別スペース。下手はホワイトボードや階段状舞台装置。天井には、蛍光灯が仕込まれた横長枠が吊るされている。しかし、物語の展開に合わせそれらの装置を可動させ、都度 状況や情景を作り出す。生演奏(音楽)は、心の乱れなど、心象風景を感じさせる見事なもの。併せて照明、特に蛍光灯の点滅は不安と不穏を助長する効果。

    物語は、中学3年生のテツキ(藤原祐規サン)の初体験、それを無神経にも言い触らす。そして高校進学、好きになった女性が演劇部に所属しているため、自分も演劇未経験だが入部。とにかく女好きで、口説きまくる。先輩から借りた演劇界 大御所のVIDEOを観て感化され…。演劇の魅力に”憑り疲れる”(☚造語)が、そんな表現が合う大人になったテツキ(村田充サン)の演技が素晴らしい。狂気とも思える演劇人、そこに演劇の「芸術」と「生活」という「生甲斐」と「経済」という両面の現実を突き付ける。ナレーター、そして 兄テツキの内面を説明する弟・亜月(久下恭平サン)の淡々とした語らいが、物語を落ち着かせる。

    物語の中で、劇中劇として公演しているシーン。その上演時に東日本大震災が発生する。非常時に演劇は、人々に生きる糧として本当に必要とされているのか、といった台詞の重み。現在に置き換え…コロナ禍で不要・不急の外出制限、演劇業界も苦境に(今も)喘いでいると聞く。しかし満席、そして観劇後のロビーでもう一度観たいと言った声を聞くと、演劇への要(急)求は必ずあると思う。

    兄の「壊れる」は精神的なこと、そして僕=弟の「滅んだ」は肉体的なこと。その演出は、脚本(物語)の中で、演劇という「芸術」の重みを役者の心象表現を通して観せるが、同時に舞台セットの「壊れる」といった視覚で印象付ける。こちらも見所の一つ。
    物語の中における劇団内の演技に対する尖った台詞、運営に対する毒を含んだ言葉、それらは実際の演劇現場を垣間見るようで興味深かった。劇中での熱い思いは、そのまま この公演における役者陣の熱演そのものに置き換わる。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/04/15 11:12

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