片生ひ百年 公演情報 ハコボレ「片生ひ百年」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     こういうレベルの高い舞台を見逃す手は無い。而もこのお値段。(必見、華5つ☆)

    ネタバレBOX

     ホリゾントに緞帳が下がりその手前に高座。高座の上には無論。噺家の座る座布団が据えられている。高座の下には平台を二段に重ね、一段目は白布で覆いその内側には白骨を思わせるオブジェが敷き詰められている。二段目の平台は何となく畳を思わせる筋目の入った紺系の色。これら総てが今作の内容とキリリと絡み、謂わば噺が精神なら、舞台美術が身体という関係を表して見事である。而も仄かに漂う香のかほり。
    自分が初めてハコボレを拝見したのは王子で、その後も王子で拝見してきた。今回は、小さな小屋とはいえ、東京の中心、新宿での公演である。先ずは新宿進出を寿ぎたい。
    落語は好きである。だが高座を聴きに通うという程リッチでは無かった為、TV・ラジオで見聞きするという程度だったが、明治時代の作家で最も好きな漱石が落語好きだったことを知って古典落語のたくさん載った本を買ってから何十年も過ぎているのに未だ目を通して居ない。情けない話だが、今回の話は恐らく人情噺というものなのだろう。落語だから無論オチはある。然しそのオチが本当に心に沁みる。深く、而もその深さを持つ幸せ者たちに嫉妬するよりは、良くやった、と労いの気持ちを込めて祝福したくなるような人情の湧き出るのを止めようがない。そのような良い話であった。この話の古典落語の元々のタイトルは「紺屋高尾」というそうだ。吉原の花魁で高尾の名は十一代迄続いた。花魁の中でも格式の高いものだったようだ。今作に登場し久蔵の嫁になるのは五代目だそうで二代目は仙台藩主に身請けされたものの、恋しい人があって藩主に無礼となるようなことがあり手打ちにされたという。この時、彼女の年齢は19歳。(今の満年齢でいえば18歳だろう)
    花魁といえば大名道具。一般の者の手が届く訳も無い。不可能なのだ。先ずはその不可能が可能になり、而も栄華を極めた花魁でさえ、幸せに生涯を終えることは極めて少なかったという状況の中、年季の明けた高尾は約束通り3月15日に久蔵の下に嫁入り。紺屋の女房として藍に手を染め、多くの子宝にも恵まれて幸せな生涯を過ごしたとのこと。噺は実にシンプルだ。それだけに久蔵の一途とその真心に惚れる高尾の実の、世間的には有り得ないような真摯で純粋な愛が深く魂を揺する。廓の客観的状況をこの恋と対比させていることと、演じた前田隆成さんの極めて自然に見せる技量がいやが上にもこの傑作古典落語を命そのものとして甦らせる。
    オープニングでさりげなくあの世とこの世の時間軸を逆転させ「片生ひ百年」に見事な変わり身で移行する点も素晴らしい。(音響、照明、美術、香りの演出も見事)。この世とあの世への生者による旅というテーマからオルフェウスや日本神話を想起する人も居るかも知れぬ。無論日本の話だから仏教に纏わる根本的な概念、六道輪廻や縁の深い哲学も織り込まれている。

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    2022/03/27 12:30

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  • 前田隆成さま
     キチンとした技術を持ち、而もいつも更に磨きを掛けようとなさる姿勢が素晴らしいですね。優れた表現者は、常にそのように努力を続けます。自分如き非才であっても矢張り常に己の目指すものと目指すことを忘れず、日々精進し、無論、悪戯っ子でもありますから時々、権威の言う事、為すことにも疑いをさしはさみ、実際にどうなのか確かめてみて、自分が誤まっている場合は、何処がどのように誤っており、過ちの原因は何であったかを考え、権威の言動等と比較しながら直してゆくという手法を採っていますが、新たなことが無いかいつも探し続けてもいます。お互い現在は観る側、観られる側ですが自分も詩を書いたりしますのでその内ご覧頂きご意見を頂きたく存じます。今後ともよろしくお願いします。何より、今回ご丁寧なご挨拶を頂き有難うございました。スタッフの皆さまにもよろしくお伝えください。
                                ハンダラ 拝

    2022/04/01 03:36

    ハンダラ様
    本当に作品を愛して観ていただきましてありがとうございます。深く御礼を申し上げます。王子での公演を幾度も見ていただき、この度の新宿も応援してもらい嬉しい限りです。ずっと誰に会いたいかを考えて考えて、みなさまにお会いすることができました。
    その中でも、自分のやってきた事の正しさを疑ったり自信を失いそうになる度に、「観てくれている人」に救われてきました。
    今回もこのように厚いお言葉を頂き、終演後にやってくる虚無感の「死神」は今回はやってきませんでした。本当に一人一人の暖かいお言葉のおかげでございます。

    落語にも演劇にも深い関心を持って観ていただき重ねてお礼を申し上げます。
    今後も、新しい作品「落語から演劇」に挑み続けますので、どうぞハコボレを前田隆成をご贔屓そしてご鞭撻の程を頂けますと幸せでございます。ありがとうございました!

    ハコボレ 前田隆成

    2022/03/31 23:50

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