カトラリ 公演情報 現ア集「カトラリ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     舞台美術は随分しっかり作り込んである。ホリゾント中央は両開きの扉。この扉がメインの出捌け。その両側にはブラインドが下がっており、入った所にカウンター。下手側壁奥にもう1カ所出捌けを設けてある。奥から背の高いスチールロッカー、張り紙を挟んで手前にスチールキャビネット。中央に事務机が対向方向に置かれ椅子は左右に置かれている。その下手奥に小机と椅子。こちらの椅子は座った人物が観客席を真正面から見るように置かれている。上手側壁には奥から張り紙、黒板、こじんまりした流し、流しには小さな手鍋が掛かっている。

    ネタバレBOX

     設定は、交番である。オープニングでは、報告書を作成している警視が1人対向する下手の机で事務作業をしているが、そこへ見回りから戻った巡査2人が入って来る。見回り中に出会った人々についての話などが何とも言えないゆるいタッチで語られるのだが、対話に微妙な齟齬があったり、その齟齬を通したオトボケが仕込んであったりで笑いの絶える暇が無い。椅子に掛けた警官Aは、膝をさすっている。痛むのだと言うが、その痛みは見回りの際にのみ起きるのだと言う。すると一緒に見回りに行った相棒Bが心理的な問題なのではないか? と疑問を呈し、Aとの間にこれまた滑稽な対話が為されるが、笑いの種は別次元でも仕込んであってAは、見回りの際に指差し確認をすることで見過ごしを防いで進歩があったと主張しその有様を再現して見せる。だが彼は指差し確認をして日々、その死角を減らしていても、其処迄しかしない。つまり本来の目的、不審者を発見して職務質問をしたり、困っている人を見付けて対応したりという目的は失念し続けてきたのである。恰も出来の悪いパソコンの如き思考様式をし、その意味ではIT機器に似ている。ま、済んでしまったことは仕方が無い。次からは本来の目的が実行できるようにしようと自ら反省し前向きに行動すべく覚悟を述べる点ではオトボケ人間ぽいのだが、いざ実践しようとすると常に指差し確認をすると、本来は目的の為の手段だったハズの指差し確認で終わってきたように手段が目的と化しその先には進めない、というコンピュータのような反応を越えられない。更に留置している犯人も居ないのに、カツ丼がデリバリーされてきて、良く遺失物等を届けてくれる近隣住民が道路に落ちていたという棘だらけのサボテンを持って来た際に、カツ丼を食べたそうにしていたので勧めても、微妙に遠慮して食べようとしなかったりという何とも言えぬ箍の外し方が挿入されて、笑いを増幅させてくれる。警察と近隣住民とのゆるい対話や親交に我々の日常が面白おかしく溶け込まされ表現されているが、これだけではない。近隣住民が得体の知れない騒音に悩まされているという話題が出、それに対処すべくシステムを立ち上げるとマザーコンピュータが起動、どのような案件かを質問してくる。案件を述べると対応する部隊を派遣すべくプログラムが実行される。すると、蛸の足のような足で動く小型ロボット数台が現れてもごもご動き出す。然しマザーの具合が余り良くないとの指摘がB等から出、直してくれとの要請はAに対して為される。Aは、出来の悪いコンピュータのようにある意味極めて論理的で指示されたこと或は思い込んだ事しかできないにも拘らずである。指差し確認の件でAのマインドコントロールの不完全性を巡って心理的な見回りに対する嫌悪感が膝の痛みを齎しているのではないか? との疑義に「そのような嫌悪感は無い」と答えたAだったが、「実はそうであるからこそ、無意識が嫌悪感が無いと思い込ませているかも知れない」とBが主張していた伏線が活きてくる。而も統括しているのはマザーコンピュータであり、マザーコンピュータが暴走する怖さは「2001年宇宙の旅」のHALで描かれた他、いくらでもSFに登場しているから我々には既知感が有りその恐怖もリアルなものがある。更にラストシーンでは、派出所の3人とサボテンを届けてくれた人物も加わり、これも近隣住民に迷惑な騒音の「原因」とも取れる鍋、小机、机、いきなり起動し現れたロボット部隊とマザーコンピュータの出す騒音等がミックスされたどんちゃん騒ぎが演じられるのだ。而もこの時にも一緒に「演奏」してくれた礼にカツ丼が勧められるのだが、完全には演奏できなかった旨告げてサボテンの人物は今回の勧めも固辞する。ところで、不気味なことに半分IT機器のようなキャラのAがマザーコンピュータをシャットダウンした後にもロボット部隊の動きは続いているのである。このラストが次元を異にする面白不気味なシーンで終わる点でも一筋縄ではゆかぬ面黒い作品だ。

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    2022/03/21 10:51

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