サヨナフーピストル連続射殺魔ノリオの青春 公演情報 オフィスコットーネ「サヨナフーピストル連続射殺魔ノリオの青春」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    永山則夫は十三歳年下だが、私が社会に出て仕事を覚え始めたころにこの事件が起きたので忘れられない犯罪事件だ。昭和三十年から四十年にかけて、高度成長驀進中の社会で、経済による階層分化は、音を立てて、日々進んでいった。当時を知らない今の人びとも記録を渉猟すればその実態のすさまじさは理解できるだろう。
    現在は、「ノリオ」の直接原因となった貧窮の実態は当時とは変わってしまっているが、今もなお、社会に巣くう様々な形の階層分化はいまを生きる人間の宿痾の源になっている。
    この芝居のテーマは確かに今も生きている。満席の客席が粛然となったことも肯ける。
    舞台ではノリオ(池下重大)の軌跡が、犠牲者四人が、紀夫の家族(母・水野あや、姉・清水直子)のもとに集まってくるという巧みな相対化の仕掛けの中で演じられる。どのようなテキストレジがされているかは知らないが、過不足ない演出だ。711の狭い劇場の観客に、網走の氷の海に浮かぶ氷山でひとり遊ぶ幼いノリオを眼前に見せてくれる。
    俳優も全員が、よく演じ切っている。幕間なしの1時間45分。
    現実の本人の犯行からその後の獄中の変遷まで、事実はセンチメンタルな悲劇やプロバカンダ劇に流れやすい素材だが、そこをよく押さえ、現代の社会がもたらす普遍的な差別の社会劇にまとめた見事な舞台であった。見た回にはオマケで、母親が事件後に取材を受ける短いひとり芝居〈15分〉がついていて、濃い内容の芝居を見た後、劇場を出るまでの短いブリッジになっていたが、やはりこれは蛇足だろう。観劇後そのまま今の世の中に放りだされたほうが心に響いたと思う。

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    2022/03/17 21:50

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