ハルメリ 公演情報 西村和宏(青年団演出部)+ウォーリー木下(sunday)企画「ハルメリ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ハルメリっていう空気みたいなものを「読む」ということが日本的
    「ハルメリ」というファッドな流行を軸に、現代の、というより、「ハルメリ現象」とも言えるような、日本人的な精神構造を描いた作品だった。

    物語の構造・演出も面白く、楽しんで観劇できた。

    ネタバレまた長くなりました・・・。

    ネタバレBOX

    冒頭のハルメリ・クラブを見て思ったのは、これって、例えば、渋谷のセンター街だったり、原宿の竹下通りだったりするのではないかということだ。
    若いエネルギーに溢れているようだが、横一線に並ぶことで安心できる空間。最先端のようで、そうではなく、よく見ると、誰も前には出ていない横並びの関係=安心がそこにある。

    「ハルメリ」とは、人より前に出ない、出る者は打たれるというような感覚であると言う。しかも、それは「負け犬」的でありながら、「冗談」であると言い切ってしまう。
    横一線にあることで安心しているのだが、やはり本当は前に出たいし、目立ちもしたい。そんな自分を気持ちが恥ずかしいから、あるいはそうできないから、「冗談」と言うしかない状況がある。

    それを「優しさ」なんていう「インチキ」で、聞こえのいい言葉で言い表してしまうことの欺瞞。そう言われたら返す言葉がないズルイ言葉によって、ハルメリは鎧を着る。
    だから、老若男女に受け入れられるし、はやりもする。受け入れない者、本音を語ってしまう者は、はじかれる。
    だから、コトの本質を見抜いてしまいそうになった男は抹殺されてしまったのだ。

    でも、よく考えてみると、そういうハルメリ感覚は、実は、現代の「若者」特有のものではない。会社の中、いや社会の中でも横並びなら安心という感覚はある。日本人特有のものではないだろうか、そういう感覚は。しかし、一歩先んじたいという意識は「冗談」という糖衣をまとって、心の奥底に間違いなくある。
    昔「ナンバーワンよりオンリーワン」なんて言葉が流行ったけれど、やっぱり(何かで)「ワン」にはなっておきたいのだ、本音は。

    ファッドはすぐに消え、新たなファッドかファッションに取って変わられる運命にある。それを知りつつもやはり、横に並びたい、人と同じでいたい、「フツウ」でいたい、という感覚で、そこに参加してしまう。
    それに心から「帰依」してしまう者もいれば、「装う」ことでしたたかに自分の位置を確保する者もいる。
    横並びなのに、「ナンバーワン」を決めるTVの企画はそこをうまくついている。

    それは、例えば、「エコ」という流行の中で、「この商品はエコです」ということを訴えるために、資源を無駄に浪費して宣伝する行為にも似ている。
    純和風なハルメリの構造はここにもある。

    さらに、ハルメリそのものを取り上げることで、視聴率や購読者を増やそうとするTVや雑誌、そのお膳立ての上でさらに自らをハルメリ商品として提供する、元主婦のコメンテーター、ハルメリ美女、アイドルたち。
    そんなハルメリそのものの面白さだけでなく、それを取り巻く人々の思惑や商売を含めて「ハルメリ現象」として描いたところに、この舞台の面白さがあったと思う。
    「ハルメリ」という設定も日本人的だし、それによって引き起こされる「ハルメリ現象」と言えるようなことも、まさに日本人的感覚なのだ。その二重構造が見事。

    ただ、、その見せ方は、TVのワイドショーを揶揄したような展開だったが、現実のワイドショーが低迷している今、なんだか変な古さを感じでしまった。何かの流行によって、コメンテーターに祭り上げられてしまうことは、ずいぶん昔のワイドショー華やかなりし頃の出来事だし、2ch実況スレみたいなものも、なんとなく古さを感じてしまった(TVの2ch実況スレ的な演出は、あるようでなかったと思い、とても面白かった)。

    「普遍的なテーマ」を「現代的な切り口」で見せたのか、あるいは逆に「現代的な見せ方」で「普遍的なテーマ」を浮かび上がらせたのかはわからないが、内容的にはとても興味深いものがあった。
    「普遍的なテーマ」であるから、この戯曲は長く残るものであるのだが、逆に「今」を素材として扱っているために、この「今」だけでしか成り立たないもののようにも感じた。

    ラスト近くで、唯一、傍観者的立場を固持していた女性記者と編集長の惨劇は、女性記者が仕事に生きることを選択にしたにもかかわらず、すでに仕事を辞めて専業主婦となっていた女性の成功と比べられることで(この女性と仕事と家庭という関係、2人の比較設定はどうなのかなぁ)引き起こされるのだが、この展開は、まるで考えるのをやめてしまったようで、イマイチ面白くない。

    ハルメリ騒動に決別するのならばそういう方向で、取り込まれるならばそういう方向で、何と言うか、リアルな、というとちょっと違うが、今回のような血を見る、安直な方向だけにはしなかったほうがよいと思った。それまでが面白いだけに。

    例えば「産まない」ことを選んだ女のように。

    たぶん、ハルメリ的な気持ちがあるのは確かだけど、ハルメリ現象には乗ることがないだろう自分を彼女に投影して観ていると、強くそう思わざるを得ない。

    そして、また、ファッドでしかない、新たなハルメリが続く。

    3

    2009/06/30 02:15

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  • >tetorapackさん
    コメントありがとうございます。
    見終わって、ああ、そういうことなんだと思ったので、つい勢いに乗って書いてしまったら、長くなってしまいました。
    あいかわらず、舞台自体のストーリーの説明がまったくなくてすみません。
    特別に難しいという芝居ではなく、ストーリーは見たそのまんまでした。
    ただし、ストーリー自体を見ていくと、「ハルメリ」という言葉自体にとらわれすぎてしまったり、「現代の若者(的な)」切り口で見てしまったりするので、tetorapackさんがまさに抜き出してくださった「日本人的な精神構造」を見逃してしまいそうだな、と思って熱くなりました。
    見終わっていろいろ考えてしまう舞台は好きだからです。
    もちろん、私の見方は、いつものとおり深読みだったり、見当違い・思い込みだったりする可能性は大なのですが(笑)。
    tetorapackさんだったらどうご覧になったのかは気になります。とっかかりがtetorapackさんがお嫌いな(笑)、エキセントリックだったり、叫んだりするシーンがありますので、厳しいレビューだった可能性はありますね。

    >みささん
    うれしいコメントありがとうございます。
    こりっちの女王(tetorapackさん命名・笑)からのお褒めの言葉、とてもうれしいです。でも、みささんも「叫び」の芝居がお好きではないので、ちょっと厳しいレビューでしたね。・・・私も編集長のメガホンで話すという設定は×(バツ)でした。
    内容だけでなく、肌触りというか、香りというか、そんな感覚的な印象でも、舞台そのものの感じ方は大きく変わりますから。

    2009/07/02 03:45

    う~~ん。。いつ読んでも捉え方が現実的で説得力あるなぁ・・。
    うんうん(・・)(。。)(・・)(。。)  頷きながら読んじゃう。
    しかも例え方も上手い。物語のその裏に潜むものをしっかり掴んでるから、凄い!



    2009/07/01 16:53

    なるほど、なるほど……。
    大作のコメント、しかと読ませていただきました。

    >日本人的な精神構造を描いた作品だった。
    アキラさんのコメント熟読して、なるほど日本的、と伝わってきました。

    >「ハルメリ現象」として描いたところに、この舞台の面白さがあった
    これまた、なるほど。あー、やっぱり観たかったなぁ。
    でも、ちょっと難しい芝居だったのかなぁ。

    このコメント、他メンバー何度も読んじゃいましたよ。

    2009/07/01 03:17

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