藤田嗣治〜白い暗闇〜 公演情報 劇団印象-indian elephant-「藤田嗣治〜白い暗闇〜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     表現する者が第1に為すべきこと。それは問題提起である。演劇に於いてもアーティストとして演劇に向き合う者なら、この点を疎そかにすべきではない。今作は、そのような立場から書かれ上演された作品と観て良かろう。この勇気ある上演に拍手を送る。

    ネタバレBOX


     ユトリロ、モジリアニ、ローランサン、シャガール、キスリングをはじめとするエコール・ド・パリを代表する日本人画家・レオナルド藤田27歳の渡仏から第2次世界大戦終結後までを描く。嗣治の父は陸軍軍医総監になった軍医であるが、本物のアーティストを目指す者らしく国籍も定型も拒否し常に時代と場所の特性を観察吸収し以て己独自の作品世界を構築しようと懸命に生きる嗣治は日本人であることも捨てた。間髪を入れずアーティストとしての抱負を述べる嗣治に対し父の嗣章は「お前は何人か」と鋭い問いを発する。父は、それは一般の人々とは全く異なる世界を生きることだと知っているからであり、大きな仕事を為す者は良くも悪くも社会の代表者となることの意味を知っているからである。然し嗣治の意思は固く、表現することに総てを賭け制作した作品を通して永遠と戦うことを希求する。これは一般人が想像するような甘ったれた世界では無い。全き孤独を知悉しつつ、己の全存在を賭けて、世界を観察解析し、作品に仕上げる為の技術を磨き且つ作品として屹立させることに他ならないからだ。それを実現する為に払う代償は決して小さなものではない。己の孤立と孤高を時の齎す鑢でしかと磨き屹立した物として観る者の眼前に対置することだからである。一般人には、このような人生を選んだ人間の心持ちは理解できない。無論、理解しようともしない。一般人の見るのは単に作家の評判、気にするのは自分の周りの人間が下す己の評判に過ぎない。而もそのような評判の結果は作家に重大な脅威とも名声ともなり得る。殊に日本の同調圧力を原理とする圧迫は、その中心に天皇制に実に良く似た責任回避という名の空虚を置くので日本の一般人が「扇動された」(実際には周囲の目と官憲を恐れて嘘八百を選んだに過ぎないが)時の実際の圧迫とその後それが流行遅れとなった時に主体責任を完全に無視する徹底性に於いて天皇制とその象徴する空虚を根拠とする「論理」は並ぶべき規範を他国には見ないのではないか? 天皇が日本独自の云々と言い張る人々は少なくともそのように考えていると思われる。因みに朝日新聞の住は、帝大時代下町のセツルメントの中心スタッフとして活動していた。ということは東京帝国大学のマルクス主義者学生だったということだと、日本近現代史を多少齧っている者なら誰でも類推する所だ。多門が左翼的な発想を根底に秘めているのも少なくとも左派のイデオロギー、人間観を根底に置いていることは明らかである。これらの開明的思想を知る人物達が、乗り込んでくる占領軍がどのような施策を採るか事前にあれこれ考えるのは必然である。関連資料を燃やそうとする発想もある意味で自然であり、それは己の関与が日本軍政に関わりが深ければ深いほどリアルに考えざるを得ない。この期に及んで敵前逃亡する為には多くの困難が存するし、ましてかつて左翼知識人としてリーダーシップを発揮した住が、己のできる範囲で社会的責任を全うしようとする(絵描きの中から戦犯を出さない)のは当然である。無論、多門の言っていることは現代の我々から見て最も民主的で理想的な意見ではある。然し多門は小物で社会的責任を負うべき責務は住に比べて遥かに少ないのも事実だからこそ、理想的なことが未だ言えた、ということも見逃せない。第1の弟子である山田は戦死してしまったが、大日本帝国臣民から日本国国民になった無責任極まる人々から戦犯容疑者とみられ始めた嗣治は、その重圧からの妄想の中で死んだ兵士達から襲われる己の姿を幻視する。ヘルメットを被っているから顔は良く見えないが銃剣を付けた歩兵銃で襲ってくる彼らに応戦していて倒してしまった兵士からヘルメットが落ちた。その時、嗣治が見た兵の顔は、山田であった。この痛哭! 
     先にも述べた通りアーティストとしての嗣治に対し父の嗣章は「お前は何人か」と鋭い問いを発していた。この一言が意味した所は、実際日本でレオナルド藤田の作品評価を手の平を返す程大きく左右した。然し、その時期が過ぎ去ると嗣治の作品は、その作品の持つ普遍性と普遍的美即ち永遠性によって再び多くのファンを獲得して現在に至っている。
     以上に挙げた総てが、今作が我々に提起した問題群である。この事実を良く噛みしめて反芻したい。


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    2021/11/02 18:29

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