ぼくらが非情の大河をくだる時 公演情報 オフィスリコプロダクション株式会社「ぼくらが非情の大河をくだる時」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    半世紀ほど前に書かれた戯曲…「岸田戯曲賞受賞」(1974年度)
    社会情勢・世相を陰影のように漂わせながら、人の生と死 さらに生者の心の深淵を覗き込むような物語。抽象度が高いから難解とも思えるが…。
    公演で注目すべきは演出である。説明でも「銀ゲンタの新たな演出で旋風を巻き起こす」とあったが、その意気込みは十分感じられた。少なくとも自分は好きである。

    (上演時間70分)

    ネタバレBOX

    舞台美術、上演前の上手・下手側にあったブルーシートを捲ると、そこには男便所の便房と汚れた小便器2つと手洗い場。

    物語(説明参照)…深夜、公衆便所は男が男を求めて集まる場所となる。その猥雑な場に詩人が現れ、便所の壁や柱を愛撫し始める。彼は夢なのか愛なのか、いずれにしても朽ち敗(破)れた無名戦士たちが公衆便所の下に埋められていると信じ、毎夜探し歩く。父と兄は白木の棺桶を持ってその気狂いの弟を追う。2人は何度も彼を見捨てようとする。しかし兄はかつて弟を裏切ったことを悔やみ、弟の描く兄の役を演じ続ける。その偶像が壊れたとき、詩人は兄の持つナイフで自らの命を絶つ。兄は父を見捨て、背に荒縄で詩人の死体を括り付け、夜の町に消えてゆく。公衆便所に渦巻くそれぞれの思いと淫猥な男たちの終わりなき彷徨と咆哮。詩人は名も無き戦士を象徴し、父と兄はそれぞれの観点から冷徹に見詰めているようだ。

    上演(一応 暗転を目安)前、すでに舞台上では上下黒服(Tシャツ、ポロシャツの違いあり)の男たちが、エアカードゲーム、スケッチ、談笑等をしており明るい雰囲気。暗転時には街中の雑踏、人の会話といった効果音が流れる。それが明転後、雰囲気が一転する。そしてラスト近くで、冒頭の男たちが白塗顔にブリーフだけの裸体で現れた時に、上演前の光景の意図が氷解した。因みに詩人は白シャツで次元の違いを表す。

    書かれた当時の社会情勢、その下敷きになっているのが学生運動。今の時代とは比較にならない過激さがあり、それが らしい風潮でもあった。そんな時代背景を現代において描き出すのは難しい。しかし公演では戯曲の真(芯)を損なわず、描かれている「名もなき戦士」を70年代から、なるべく現代に引き寄せて描いていた。自分が何者なのか、そして何が出来るのか、そんな曖昧、悶々とした感情はいつの時代でも持っている。その何者でもない人々が、例えば経済成長期(バブルという幻もあった)に企業戦士となり過労死していく。この世は、名もなき人々の無念も含め色々な屍の上に成り立っている。

    詩人の意識は社会という見えざる敵に対し、人(老若男女)という戦士が必死に戦い、やがて死んでいく。訳が分かったような分からない混沌とした世界の中にある。公演では若者(詩人)だけでなく幅広い世代に問題を負わせ、生きることの困難さを格調高く描いている。
    時代を半世紀遡れば、赤い薔薇は死のイメージかも知れない。しかし生死は表裏の関係のように、見方を変えれば薔薇の花言葉は「愛」であり、人間の愛おしさを噛みしめた表現とも言える。だから(見)捨てたくても出来ないのだ。上演前が生の世界であれば、上演後は死の淵、もしくは死そのものである。男たちが白塗顔で彷徨う姿は、見た目は滑稽だが不気味な情景だ。

    雰囲気は、男だけの出演だが不思議と美しく妖しげ。そして退廃・虚無といった感じが漂い始める。それは単色照明をスポットまたは広角度から照射し協調を拒んでいるからのようだ。ラスト…詩人が兄に背負われている時に流れる音楽が良く、思わず終演後に曲名「PRAY~あなたがいるから」を聞いてしまった。演出の拘りであろうか、変形様式美と言うか ある統一性(黒服や裸体パフォーマンス)と歪さ(棺桶の傾斜置き)のアンバランス(=とらわれない自由)を意識・強調した観せ方のよう。それによって魂が思い思いに昇華していくイメージ。
    脚本が書かれた時代状況等、そこに描かれた内容が理解しにくく小難しいと思えても、演出はそれを補って余りある見事なもの。
    一言いえば、冒頭の衣装は黒統一ではなく、自由(普段着、スーツなど)にし、生を象徴。後に黒服(死の淵)、裸(死)とメリハリがあっても良かった(ネタバレが早くなるが、今の時代には分かり易いかも)

    初日終演後でお疲れのところ、社長の北田万里子さんに挨拶、銀ゲンタ氏とは話をさせていただいた。感謝。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/09/11 16:50

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