実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2021/07/15 (木) 14:00
座席1階
脚本の畑澤聖悟さんは秋田県出身で、青森の県立高校の教員だ。今ではもう、教員というより脚本家と言う方が名高いが、この舞台は彼のホームグラウンドの青森県。三本木農業高校は実在の学校である。
畜産や動物飼育を専門とする女子高生たちが、ある日先生に連れられてペットの殺処分の状況を施設見学する。鶏を絞めてから揚げにして食べるという「命をいただく」という授業を経験している生徒たちだが、二酸化炭素ガスで安楽死させ、焼却して残った骨をごみとして捨てているという現実にショックを受ける。そこから生まれた彼女たちのアイデアが、この舞台のメーンテーマである。
沿岸部ほど大きな被害がなかったものの、東日本大震災を経験した生徒たちの胸の内もしっかり描かれる。全編「命の授業」というだけに、小動物から人間までその命が持つ意味を問いかける舞台に仕上がっている。全国の小学校で公演したとあって、舞台は学校演劇の香りが濃いが、この日の客席は若い世代も含めて大人たち。時折涙も誘う感動の舞台になった。
シンプルな演出だが、映像をうまく使っている。特に終盤、植木鉢を持った人たちの笑顔がいい。女子高生たちが「受け入れられるだろうか」と悩んでいたことが杞憂だったと雄弁に物語る。
登場人物たち、つまり銅鑼の俳優たちの写真も出てくるが、撮影場所は銅鑼のけいこ場がある敷地内だろうか。どこかで見覚えのある背景だった。
今回は、劇団が力を入れているバリアフリーサービス付き。音声ガイドやタブレット端末による字幕、車いす対応、そして女子高生たちと同じ衣装(高校の作業着)を着た女性が舞台下手で役者たちが使っているのと同じ椅子に座るなどして手話通訳をしている。この通訳は女子高生たちのクラスメートという雰囲気がうまく醸し出されていて、手話通訳を見ない人にとっても演劇としての違和感はとても少ないと思う。「舞台手話通訳」は通訳が役者の一人として舞台に溶け込むスタイルを指すようだが、今回はそれに近い感じだ。