聖なる日 公演情報 劇団俳小「聖なる日」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    メインキャストに客演を据える「こだわり」の成果か、ここ数年秀作舞台を出している俳小。今回の月船さららはリアルな人物形象を要求する「普通の劇」でちゃんと演技していたのが新鮮であった(metro等では月船ありきの演出)。

    「黒人」と呼ばれる人々は先住民であり、それはアボリジニであり、従ってここはオーストラリアである、と鈍感にも後半で気づき、終わってみれば侵略史を告発するドラマであった。
    もっとも物語は入植者(白人)同士が、当地の「情勢」を背景にいささか剣呑な部類の人間ドラマを展開。情勢とはアボリジニの報復を思わせる事件が続いている事であるが、舞台となる飲食を振舞う村はずれの娼婦の店にはアボリジニとの混血である「娘」がおり、仕事を求めてやってきたアボリジニの肌をした若い女との接触が娘の中に波紋を落とす。やがて己の出自を疑い始める思春期の娘と、不幸に染まった人生の代償のように娘(実はアボリジニの村の外れで拾ってきた)を溺愛する母との軋みも生まれる。また長逗留する事となった仕事を求めてやってきた三人の男(この人物らが登場する冒頭から終始ドラマにとっての劇薬となっている)、開拓伝道に訪れていたがついに自死に至った神父の夫人の登場等が絡まって、「崩壊」の予兆を告げる状況と決裂すべく最も剣呑な客であった男がアボリジニ殲滅部隊を組織し、「情勢」は極限へと昇り詰める。この部分は恐らく史実に基づいており、白人国家オーストラリアの負の歴史がやおら浮上するという案配である。

    この舞台を特徴づけるのは不穏さという通奏低音である。四方を闇に囲まれた入植者のよすがは目の前に居る「生身の他者」という存在以外ない(確立された社会システム=「想定他者」が保証する安堵がもたらされない)、言わば原始的な条件である。舞台の魅力は、この不穏さがもたらすスリルと言える。人間の抗えない内なる暴力性やぎりぎりの妥協や、最後に何を死守するかを迫られて歩く生ゆえに崖縁を離れただけで得られる幸福感といった、得難い疑似体験が満載なのである。
    かつて流刑地であったオーストラリアという国を自ら告発するような劇作であるが、荒んだ状況を生きる最も荒んだ人間たちを描く作者の筆致はそれらを包む温かさも感じさせる。

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    2021/04/08 08:58

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