実演鑑賞
満足度★★★★★
前知識として。元々オーストラリアはイギリスの流刑植民地であった。囚人達が次々と送り込まれてくる流刑地。原住民であるアボリジニは類人猿と見做されていて、1967年まで人権は与えられなかった。
休憩10分含む二幕2時間40分。舞台美術、小道具、衣装、メイクと全て本気度を感じさせる。不穏なBGMも良かった。蝋人形のように袖で突っ立っている役者が出番と共に動き出す張り詰めた緊張感。
19世紀、オーストラリアの荒野にぽつんと佇む安宿。その地では開拓民と原住民アボリジニとの間に頻繁に事件が多発。そこに流れ着く三人の訳有な放浪者。安宿には女主人とアボリジニの義理の娘とが暮らしている。
何かセルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を観ているような感覚になった。マカロニ・ウエスタンのあの肌触り。この空気感だけでずっと観ていられる。
勝手な偏見だが、女主人ノーラ役月船さららさんはこれが一番本人に近い役なのではと思ってしまった。悪魔みたいに美しい。
余りにも邪悪な男、いわいのふ健氏扮するガウンドリーのその果てしのない醜悪さが不快感を超越して、文学の域にまで達している。そこには直視するべき人間がいる。いわいのふ健氏の狂気の当たり役、必見。
アボリジニと白人の混血の少女、オビーディエンス役の小池のぞみさんも秀逸。メイクなしの別の役柄も観てみたい。
西本さおりさん演じるリンダの獣のような咆哮のインパクトが耳奥に木霊する。
出演する全ての役者が素晴らしい。
名台詞が多く、決まりに決まる。
「涙を見せない女は危険だよ!それは私だからさ!」
「ランプを点けとくれ、夜が近寄らないように。世界にあたし等がここにいるってことを伝えなければ。世界の方は誰も見てやしないけれども。」
エンニオ・モリコーネに曲を書いて貰いたかった。
まさにこれぞ観たかった作品。