満足度★★★★★
第2場の最初、最若手で語り手のルーカス(瀬戸康史)が、間違って机でボヤを出し壁を黒焦げにしたら「こいつもイカれてる」と認定されて採用された、と語る。言われてみると、壁には黒々と、天井までの焦げ跡。1場ではなかったのに。私はここで笑いのスイッチが入って、それまでのストッパーが外れた。あとは舞台のコントに素直に笑い続けられて、最高だった。
なにより、みな芸達者。なかでも病気ノイローゼで遅刻常習犯のアイラ役(梶原善)が、本当に、ねじが外れてた。声量も他を圧するボリューム。ブライアン(鈴木浩介)との、コント合戦も笑えた。コメディアンのマックス(小手伸也)も、いかれぶりがハンパなかった。ジュリアス・シーザーのコントの練習が最高潮の一つ。ルーカスがブルータス役なのに、足が震えて、シーザー(マックス)に剣を向けることができず、マックスが「ブルータス、お前もか!」の決め台詞が言えないために、じれまくる場面は爆笑だった。唯一作家ではない秘書のヘレン(青木さやか)の一回だけの幕間のコントも良かったし、またいかれた放送作家たちにはかなわないずっこけぶりも良かった。
テレビの人気バラエティ番組を支えた構想作家たちのドタバタ、おかしな毎日を描く業界裏話なのだが、赤狩りが物語のなかで意外に強調されている。最初にマッカーシーによる英雄将軍も共産党員呼ばわりから始まり、スターリン死去もはさんで、マッカーシーへのけん責決議で終わる。彼らの作る番組がどんどん時代から取り残されていくところに、ただのドタバタではないペーソスが生れる。予算カットで7人の作家のうち、1人を首にするためのくじで「マックス」という名前が出てくるところは、大笑いしながらも、ぞの優しさがジンときた。ただ、マックスの凋落と赤狩りとは直接関係ない。
サイモンにのっとりながらも、今の日本の観客向けに脚色しているところが、成功のもう一つの要因だろう。翻訳臭さがなかった。三谷幸喜にとって「ヒトの本」だけど、三谷カラー全開で、楽しくやれたのではないか。