実演鑑賞
満足度★★★★★
この公演の優れたところは、時代背景の説明と人物造形の多角性にある。物語は1920年代から1945年までを順々に展開し、その時代に生きた人々の性格はもちろん、立場や状況を実に巧みに描いているところ。また国家・人種観という大局観から人の感情という生活や内面まで取り込んで観客を魅了する。国家(体制)その時代にその地で暮らす人々を巧みに描くことで、物語に厚みを持たせている。この骨太・重厚感は一見難しい内容に思われそうだが、一人ひとりの人物像を魅力的に描くことによって、物語の世界にグイグイと引き込む。
タイトルにもなっている主人公エーリヒ・ケストナーは、ナチズム台頭と同時に創作活動(少なくとも発表禁止)は行わないという抵抗をしたらしい。閉塞した現況という点(物語背景の状況とは全然違う)において、コロナ禍にも関わらず、当日パンフに脚本・演出の鈴木アツト氏は早くこの作品を上演したかったと記している。観客として自分もこの作品を今観ることが出来て嬉しく思う。
(上演時間2時間10分 途中休憩なし)