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天神さまのほそみち
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公演情報
燐光群「
天神さまのほそみち
」の観てきた!クチコミとコメント
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ハンダラ(10439)
満足度
★★★★★
「天神さまのほそみち」2020.7.10 19時 ザ・スズナリ
ネタバレBOX
別役実さんの脚本、1979年に文学座のアトリエ公演として初演は上演されたが不条理演劇と称される別役戯曲は寧ろ現実そのものである。ベケットやイヨネスコの作品がそうであったように不条理と称される演劇作品の傑作が未だ上演され続けていることをみても決してこれらの作品が荒唐無稽ではないことを明かして居よう。寧ろ余りにも正確に現実に我々が生きている社会、生きてきた社会を映し出しているように思われる。今作も無論例外ではない。日本の本質を鋭く抉り取っている作品である。主たる登場人物の内、自分が最も注目するのは弟である。何故なら彼は不作為の主体だからだ。日本の社会が鵺のようであるとの指摘は己の頭で考えることのできるまっとうな知識人なら誰しもが気付く点であり、この捉えどころの無い妖怪の論理に有効な解答を与えることが出来なかったのが現在までの知的状況だと思われる。無論、此処には演出した坂手氏が指摘するように天皇制の影も見ることができよう。何となれば鵺即ち訳の分からなさであれば、天皇制のみがそれに拮抗する日本的伝統だからである。無論、自分ここで伝統と言っているのには訳がある。
少し脱線してみよう。日本に市民は殆ど存在しない。大多数は臣民、こう言って悪ければ畜人、或いは奴隷乃至政治的愚衆である。これは江戸時代と変わらない。江戸時代、政治・経済の中心であった江戸に住む庶民とは、士農工商のうちの工商である。商人は大名に金を貸す社会上層部の人士も居たが、人数の大多数を占める工は職人であり、落語に出てくるように読むことや書くことが出来れば、職人としては仕事の出来ないミムメモ(間抜け)であり、算盤迄出来るということになれば、これは半人前を絵に描いて壁に貼り付けたようなウツケ、本人も周りには、半人前として自己紹介する有様であった。即ち知は、仕事が出来ねえ癖に、訳の分からねえ能書きを抜かす間抜けのスットコドッコイだったのである。然し、ホントにそうであろうか? 知は、未知を切り裂く光である。それを理解できないのは。人口の大多数を占める大衆が単に政治的愚民だったからに過ぎないのではないか? 今作で描かれる一見、スラップスティックな「不条理」は、愚衆がそのように解釈するだけであって、日本社会の在り様の本質を捉えているのではないか? 第一段落で、日本には市民が殆ど存在して居ないことを述べた。市民とは、言うまでもなく、民主主義の根幹を為す存在であり、民主主義の根本的イデオロギーを体現する為には命をも賭ける人々である。為政者が市民の価値観を蔑ろにし、弾圧すれば革命を以て応えることを当然の権利として主張し得るだけの見識と己の頭を用いて真摯に思考するだけの知恵と能力を具えた人間である。この定義に当てはまる日本人は残念ながら殆ど居ない。居るのは先に挙げたような不作為の人間ばかりだ。不作為が世の中を鵺化し、鵺社会が伝統のみを根拠とし一切の合理的見直し論や、システム化を阻む愚論を正当化する。これこそが天皇制の正体ではないのか! ということを描いた作品だと坂手氏は考えたのだと理解した。
自分は、その鵺構造そのものを時に利用し、無責任に自らの人間的価値を滅却する姑息な手段として用いつつ、多数の側に立つことによってただ、理想もなければ己の生きる意味すら掴もうとはせぬ奴隷根性で目先の利便性や利益だけに左右される手品師として日本人の大多数が規定できてしまうのではないか? という恐れに悲しみを覚えるのである。偶々、「伊丹万作エッセイ集」という本があるのを知った。このエッセイ集の中に『戦争責任者の問題』という一篇があるそうである。読んでみたくなった。
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2020/07/14 17:27
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