インテリア 公演情報 福井裕孝「インテリア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2020/03/13 (金)

    「ものを動かすことへの執拗なこだわり」

     隣席には戸惑いの表情を浮かべている人がいたが、私は一瞬たりとも飽きなかった。まるで生活音をBGMにした日常動作という振付のダンス作品を観ているような心地になった。

    ネタバレBOX

     上演が始まると手前のドアから男(金子仁司)が入ってくる。手を入念に消毒し洗面所の鏡の前で身支度を整える。ソックスを履き直し、ビニールをたたみ、ズボンの上から尻を叩いて「オシッ」と声を上げる。少しすると男は外出する。この間せりふは一切ない。

     客席から全体を見下ろせる舞台上にはソファや机、ペットボトルの飲み物や電灯、絵画や飾りなど、自室に置いてあるものが所狭しと並べられている。観客は主宰から、自宅のインテリアを持参して舞台上に設置するよう事前に呼びかけられていた。ものの配置から推察するに、何部屋かに区切られているように思われる。

     今度は後方のドアから女(石田ミヲ)が入ってくる。机の上に加湿器を置き水を入れて顔面に蒸気をあててくつろいでいるようだ。先程の男との関係はよくわからない。そしてこの間も一切のせりふはない。舞台上にはただものが出す音や演者の出す音が響くだけである。

     この調子で演者が自室でやっている動作を続けものを動かしたり置いたりして1時間半近く上演が続く。男も女も同じような動作を繰り返す。途中別の女が入ってきて絵画や美術作品(と思しき物体)を置き移動させる。そうして最後はこの三人がものを全て一箇所にまとめて終幕する。

     本作は劇作家の書いたドラマではないが、観客はいくらでもドラマを想像する余地がある。ここまで思い切った上演を実現した福井裕孝の企みは興味深い。観終わってから自室に置いている「インテリア」とはなにか、私は考え直さざるをえなかった。また台詞なしで動きだけにもかかわらず丁度いい間で実演をした演者たちも見事である。時節柄入念な手洗い、うがい、消毒という動作にもリアリティを感じた。小津安二郎やロベール・ブレッソンの映画で描かれるような体の動きへの執拗な注目を想起した。

     そうしてくると徐々に演者がものを動かすというよりはものが演者を動かしているような心地にもなってきたから痛快であった。インテリアひとつとっても、ものをある場所に動かしたりそれをもとに戻したりするには相応のエネルギーが必要である。高校時代の化学や物理の授業で習った熱力学の法則を思い出した。

     一点不満が残るとすれば、本作のコンセプトである観客が自室のインテリアを舞台に持ち込み、上演で使われたそれを持ち帰ることの意義があまり伝わってことなかったということである。ここは再考の余地があるのではないだろうか。

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    2020/03/25 22:25

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