HOMO 公演情報 OrganWorks「HOMO」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2020/03/08 (日)

    「振付の拮抗と調和で描く人類の新時代」

     漆黒の舞台面から金属性のワイヤーでできた突起状の物体が生えている。男たちが無言で先端を撫で感触を確かめている様子はさながら未知の物体に触る動物を見ているかのようである。少し経つと客席から向かってやや上手側に建つ赤い柱のあたりにいる男(東海林靖志)がその場に横たわる。こうして「2020年人類の旅」なる『HOMO』は静かに幕を開ける。

    ネタバレBOX


     この作品には三組のダンサー群が登場する。人類最後の生き残りであるHOMO(柴一平、薬師寺綾、渡辺はるか)、一つの人格を複数人で共有する未来の人類LEGO(町田妙子、佐藤琢哉、小松睦、池上たっくん、村井玲美)、歌声でコミュニケーションをとる旧人類CANT(平原慎太郎、高橋真帆、浜田純平、大西彩瑛)。この三組の踊り分けと調和が本作第一の見どころである。

     ぜんまいじかけの人形のような角々した動きのHOMOは、エッジが効いた動きが新鮮だが見ているうちに滑稽にも物悲しくも見えてくる。白い衣装が印象的なLEGOは手足をよく伸ばしエレガントな群舞で魅了する。特に女性ダンサーのフリルが黒一面の舞台に美しく旋回して鮮やかである。そしてCANTは下半身の動作とうめき声で相互理解を図る。ダンサーたちは体を密着させたりオランウータンのような鳴き声を上げたりしていて思わず笑みがこぼれる。付言するとこのダンサーのカテゴリの詳細は、会場で販売されていたプロダクション・ノートで鑑賞後に知った。しかし舞台を観ただけで如上の分類はある程度理解することができた。

     三組のダンサー群は序盤から中盤にかけてはそれぞれが見せ場をこなす。たとえ舞台上に並んでいたとしてもHOMOやCANTがいる横をLEGOは空気のように通過するだけといった具合で干渉し合わない。彼・彼女らはやがてすこしずつ絡んでいく。この絡み方が面白い。異なる振付や身体の差異があるダンサー同士があるときは拮抗し、またあるときは調和して舞台上にイメージを創り出していく。それは鋭角的でありながら滑らかさが感じられた。きわめつけはハイライトの群舞。しだいに三組の振付の差異は無くなり舞台上に所狭しとダンサーたちが交錯してひとつのうねりのようなものが立ち上がっていく。

     音楽(熊地勇太)は近未来的でありながら土臭い粗暴さをのぞかせる。ビート音やノイズが中心だが時折息遣いや鈴虫の声に似た音色が挟み込まれ、人工的なもののなかに天然由来が入り込むゾクゾクした感触が心地よかった。 

     ラストにHOMOの女性ダンサーがなにかを見つけようと光の指す方向で体を向けるところにLEGOの女性ダンサーが絡み、包み込むようにして体を預ける。そうするとそれまで絶望的な表情であったHOMOの表情がすこし和らいだようにも見えた。作・演出・振付の平原慎太郎が参照したというスタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』は、旧人類のメッセージをもとに行動した人類が新人類へと進化するまでを、雄弁な説明を入れず視覚的・音楽的に描いた。本作のラストを人類に対する新人類からの前向きなメッセージととるべきか、はたまた終息の予兆ととるべきか。私はまだ考えあぐねている。

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    2020/03/25 22:23

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