小さなエイヨルフ=罪過 公演情報 クリム=カルム「小さなエイヨルフ=罪過」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     無論、イプセン原作の作品だが尺を約半分の1時間程にしているから脚本はかなり手を加えているが、その本質は見事に掬い上げていると見ることが出来よう。(追記2019.11.26)

    ネタバレBOX

    登場人物はヴァンパイヤのアルフレッド、幼い時に両親を殺され生きる気力を失い自死しようとしていた少女に生きる活力を与える為、首筋を噛み同族とした妹のようなアスタ、相愛の妻・リータ、道路工事の現場監督/人と人の心を繋ぐ医師でもあるボルグハイム、そして鼠を駆除することで知られる鼠婆さん、子供のできないアルフレッドが妻に与え、子に恵まれることは決してない二人の悲願を幻想として実体化した人形・エイヨルフ。
     夫婦になって10年、初めて妻を置いて一人旅に出てしまったアルフレッドが前触れもなく戻ってきた直後から今作は始まる。
     板上には防水用マットが敷かれている。というのも丁度センター辺りに黄金風呂のような形態のバスタブが設置されているからでオープニング早々、リータが乳白色の湯に浸かっている。部屋の奥に設えられた収納用凹みの左右には、何やら巻貝のような形のオブジェが2つ並んでいる。この小屋の鰻の寝床のような下手長辺にはアスタ。2人は前触れもなく帰ってきたアルフレッドについて意見を交わしている。2人の関係は、真に女性らしい。リータはアルフレッドを独占したく思っているので心の底、否、魂の底ではアスタが邪魔である。一方のアスタは、両親が何故殺されたのかも知っており、ヴァンパイヤならずとも人間からは敵視される存在であることを自覚している。アルフレッド以上に孤独な存在である。
     観劇していて、不可思議に思ったのは、鼠婆さんが来、エイヨルフを攫い、それまで鼠をどのように退治するかについて細かい話をしていたのだから、この時点で姿を消した彼女によってエイヨルフの身体は湖の底に沈められ、包帯が浮いていたとか、泳げない子が湖で溺れたとの伝聞も伝わってくるので、エイヨルフにまつわる総ての幻想性は悉く破壊され、その幻想を一切信じることも出来ずに10年間嘘を吐き続けてきたアルフレッドの何ともいたたまれないような魂の傷を、無論彼は未だ清算できておらず、幻想が打ち砕かれた妻の痛みを思って悶々としていた。が、鼠婆さんが出て行ったあと、彼女の杖が室内に残っていたこと自体は、この幻想は、夫婦がエイヨルフと名付けた人形が、子供を作ることができない自分達の愛の代償として吐き続けてきた魂の震えそのもののような嘘の結晶であり、二人は共にそのことを重々知りながら演じ哀しみを共有することにあったことに気付いていたことで共幻想(=対幻想)に陥ることができたことを表しているが、この幻想破壊自体は実際に起きたことを物語っていた。これを仕組んだのが、道路工事の監督、即ちヒトの心と心を結ぶ医師でもあるボルグハイムだったのであり、この計画を手助けしたのがアスタであった。因みに現実に演じられたあのスペースでアスタの隠れ場所は無いので下手手前に体を丸めてうずくまることで、鼠婆さん登場シーンでは、アスタ不在を表していたと解釈できる。総ての謎が解かれる中で、人間存在の不如意が新たに別次元で提示されている辺り、流石にイプセン作品というべきであろうし、ここまでイプセンの原作の本質を捉え、表現した脚本家、演出家、役者陣の演技を褒めるべきであろう。
     切り込みの入ったお洒落な当パンの折り方のセンスも頭を使った作りになっており、とても気に入った。

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    2019/11/25 23:40

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  • 皆さま
    ハンダラです。追記しておきました。

    2019/11/26 17:00

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