たとえば、車が跳ね上げた水しぶきを浴びた気分 公演情報 ガポ「たとえば、車が跳ね上げた水しぶきを浴びた気分」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     すっかり引き込まれてしまった。脚本の面白さ、演出、演技、小道具の使い方迄、中々見せてくれる秀作。べシミル。(追記2019.10.28)

    ネタバレBOX

     鰻の寝床のような小屋だが、比較的オーソドックスな用い方だ。小屋入口側に客席、正面奥が舞台で板正面奥に袖を設ける為の白い衝立。若干のスペースを取って上手、下手に矢張り白の屏風、下手のそれは曲部を斜めに設え、壁と看做して花を描いた絵画が掛けられ、上手は衝立と小屋の側壁の間を少し空け、出捌けを通り易くしてある。白屏風はちょっとクランク型に。手前が洋室、大き目のテーブルに椅子2脚。無論役者が腰掛けた時、顔が客席と対面するように置かれており、机の下には洗濯物を入れる籠とゴミ箱。テーブル下手にフレコンバッグのような形状の大きな袋様の物が置かれている。
     物語りは別れ話を持ち出された千佳が荒れている所へ若い女・信子が現れ丁度、携帯で別れ話の最中にドアホンが鳴ったため、彼が辛辣なジョークを飛ばしたと思い込んだ千佳が「鍵は掛かっていないから入って」と言ったことから始まる。千佳はてっきり、入って来たこの女のせいで彼が別れると言い出したのだと早とちり、今度は猛烈に信子に噛みつく。だが、信子は件の男のことなど知らない、と言う。サスペンス要素も入っているのでネタバレは此処まで、終演後に詳しく内容は書くが、最初ケレンとも思えた導入部から、話は二転三転、ストーリー展開の巧みにドンドン引き込まれるし、女優2人の演技もグー、歌って踊ってなどのシーンもあって、飽きさせない。タイトルが突拍子もないものだったので、内容的に薄いかも知れない、と予想していたのだが、実にキチンとリアルを見据え、而も話の展開には条理が通り、随所で小道具も効果的に使われて自然に進行してゆくと同時に、深い科白が要所、要所に鏤められてリアリティーを増す。手応えのしっかり感じられる秀作である。
      さて、少し内容についても触れておこう。千佳が結婚を望んでいるのは、研修医を自称する男である。彼女自身は施設の出身であり、以前DVに耐えかね同棲していた男を殺し掛け2年収監されたというが2年で済んだのはDV被害が認められたからである。高校も入学はしたものの直ぐ止めて援交してもいたので男を手玉に取る術も無論心得ている。他にもヤク、風俗で働いた経験も長いし、相当の手練れではある。だが、彼女の本質は、恰も日本ではレミゼ位しか知られて居ないかも知れない仏19世紀最大の文学者(大詩人・大小説家)であったヴィクトル・ユゴーが不幸な女達を庇って歌った有名な詩「おお、落ちてゆく女を決して」に描かれたような仏ユマニスムの伝統に則り、その精神の根底に純粋で気高い魂を持つ娼婦、生き方の達人ではあるが傷つき深い傷を抱えた女として好意的に描かれているのと似た視座。
     ところで、当初謎として現れた女・信子は、彼女らの両親が自殺して果てた後、施設で一緒に暮らした妹であった。信子は、親切な夫婦に養子として貰われ豊かで社会的地位も高い両親の下で暮らしてきたのだが、小さな時、施設に入る前に飢えと渇きに苦しんで泣く自分の為に泥棒を働いて守り、決してそのような犯罪行為を妹の自分には明かさずに面倒を見てくれた姉に対し、深い感謝と愛情を抱き、それ故猶更申し訳なさが募って何としても会いたいとこの20年間思い続けて来、義父に頼んで姉の身上調査をして貰った。その結果、姉が貢いでいる男は、詐欺師であり、女・年寄り等金になれば誰でも騙しカモる屑であることが判明、実際に姉に会って姉の気持ちと真偽を確認しようと近づいたのであった。義父夫妻は姉妹共々養子にしたいと手続きを進めていたのだが、千佳は己の自由が損なわれるような気がして断り、信子の歩んだ幸せからは逸れた。結果先に話した人生を送ることになったのであるが、信子は、自分だけが幸せになったことが許せず、下司との関係を姉が傷つかずに断てるように準備万端を整え、姉の所に転がり込むことに成功すると、自らの出自を証し共同生活を始める。この過程で家族・肉親の温かさを骨身に沁みて感じた千佳の心も徐々にほどけてゆく。最終的に信子は千佳に過去の総ての清算を承諾させることに成功し、千佳がホントに世話になったパトロンとのスイス旅行から戻ってきたら、自分の主人になる人物の関わる会社への就職の内定も義父を通して纏まっていたのだが、1通の手紙が届く。千佳からのもので、航空便であった。その内容は。千佳の歩んで来た過去が必ず信子やその婚約者、義父母など関係者に迷惑を掛ける。だから自分は姿を隠す。但し20年後、今回出会えた20年を過ぎて必ず千佳から信子に連絡を取る、と約したものであった。リアルではないか?
     

    4

    2019/10/27 00:18

    1

    0

  • 坂崎さま
     お二人の演技にそれぞれ先に書かせて頂いた深みがあり、自分はそのどちらも
    高く評価しました。信子を演じた坂崎さんの姉との終盤でのシーンでは、姉を甘えさせる場面もあり、この辺りの育ちの違い、愛されて育った子供の人間的な強さが良く出ていました。また、いつか舞台を拝見したく思います。
                                    ハンダラ

    2019/10/29 07:38

    坂崎 愛さま
     女性は、恋愛のプロなので、そのようなことに絡む演技に関しては
    我々男共など到底太刀打ちできるレベルにありません。愛する力の強さと
    愛にまつわる総てについて、女性はいつでもそれを生きます。その部分が
    素晴らしい。
     自分は演技の最高のレベルは役を生きることだと考えています。
    スタニスラフスキーでも「詩学」を書いてギリシャ演劇の理論的支柱を示したアリストテレスでも「風姿花伝」でもイタリアのアルレッキーノの卓越にしても
    結局、最終的には役を生きる為のノウハウでしょう。本質を見ることです。それを
    見ることができなければ人生に於いて何も得ることはできません。そして本質を見抜く
    為の唯一の方法、それは徹底的に率直であること。己を仮借なき裸の目で見、世界を矢張り同じように裸の目で見ることです。お互い、そこから外れることの無いよう気を付けましょう。コメント有難うございました。
                                   ハンダラ
     

    2019/10/29 03:26

    ご来場と、ご感想ありがとうございます。幕が上がる前に見ておきたかったと思うほど、作品の本質をついたご感想に、私は驚きが隠せません。役者として、まだまだ未熟ですが、今後の励みになりました。本当にありがとうございました。

    2019/10/29 02:13

    皆さま
    ハンダラです。終演後の追記しておきました。
    ご笑覧下さい。
                  机下

    2019/10/28 16:47

このページのQRコードです。

拡大