なにもおきない 公演情報 燐光群「なにもおきない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     「なにもおきない」延長公演(10月23日まで・21日休演詳細は燐光群へ)が決定したというので2回目の観劇。besimiru

    ネタバレBOX

    ホントに面白い作品である。導入部の演出は一般的なものになって、好みから言えば、自分は最初の演出の方が好きだ。為政者を奈落に送り込む話については、今回は個人名を挙げず代わりに立法府の長としている点が頗る良い。
     この公演の前回レビューにも挙げた挿話の中には対比されているものがある。(以下再録:原発が原因の被ばく問題に繋がる核施設とロシアのぺテルゴフに当初ピョートル大帝の命によって建設が開始された「夏の宮殿」の噴水群の話である。この噴水は24時間総ての噴水から水を噴出させることができるが、その原理は高低差を基本とし水源は地下湖などである。水路を繋ぐパイプの総延長は56㎞に及び、原発の冷却水等のパイプに比べると短いがそれでもイメージで途轍もない規模だと想像するには充分、一方は、人々に美と安らぎと癒しを与え、而も無害で動力にも自然の摂理を利用しているのでエネルギー効率に無駄が無いが、一方は人類どころか地球上の総ての生命を危うくする危険を齎し、不効率で人々には不安、病と望まざる死や凄まじい苦痛、苦悩、不安と解決不能な災厄を齎す絶対悪の対比である。)更にエネルギー関係で比較されているのが炭鉱である。小出裕章さんの「隠される原子力 核の真実」P.37~38の記述によれば、原発のエネルギー源であるウランの利用できるエネルギー換算量は、石油の数分の1、石炭の数十分の1でしかない、という。石炭と石油は火力発電の原料として用いられているが、原発でも火力発電でも燃料を用いてやっていることは、湯を沸かすことだ。そこから発生する蒸気でタービンを回し発電しているのである。発電効率は極めて悪い。殊に原発は余りに危険だから人口密集地に作ることが出来ない為送電線が無駄に長くなりコストが膨らむばかりではなく、送電中のエネルギーロスも多く、今年のように台風被害が多い場合には復旧も手間取る。一方、我々の日常生活はかなりの割合で電気に依存しているから停電が長引けば命に関わる。以前にも書いたが、こんな問題を根本的に変えるには水素発電をメインに再生可能エネルギーを用いた発電をサブにエネルギーシフトを図るべきである。そうすれば、今作に描かれたような炭鉱労働者同士の悲恋とその結果のリンチや、親の知らぬ間に年端も行かぬ子供の他の山への売買、無理な掘削による炭塵爆発「事故」、一酸化中毒死・廃人化等々の悲劇も生まずに済む。原発は、炭鉱どころの騒ぎでは済まないのは自明である。今作でも防護服を着た作業員が高濃度汚染地域に転落し絶望視されていたのが、「神を見た、神が助けてくれた」と奇蹟の生還を果たすシーンがある。が、助けてくれたのは人間は入れない危険エリアで作業に従事するアンドロイドであった。美しい女性の形をしたアンドロイドが核汚染地域で働かされているのである。心が痛まないか?
     戒厳令が敷かれたと言って洞窟に逃げ込んで来たのは、4.3事件で米・韓軍の虐殺を逃れてきたチェジュド島民であった。多くの日本人は4.3事件を知らないだろう。ところで鶴橋は知っているかも知れない。旨いキムチの産地として地名を冠し、スーパーでも良く売られているから。鶴橋は大阪環状線の駅名でもある。かつてこの駅からは猪飼野に行けた。現在、猪飼野は無い。というか地名変更されてその呼称が消えた。だが、このエリアには在日の人々が数多く暮らす。住民にはかなりチェジュド出身者が多いが、4.3事件のあった当時、チェジュドから大阪へは直行の船便があった。虐殺を逃れた難民としてチェジュドの人々が命からがら逃げ延び辿りつき、定住したのが猪飼野であった。この人々に日本の官憲は随分辛く当たった。戦後の彼らの生活の一端は開高健の「日本三文オペラ」小松左京の「日本アパッチ族」に描かれ、金時鐘という優れた詩人を生み、ヤン・ソギルというユニークな表現者を生んだ。キム・チョリが主催する劇団Mayの傑作「風の市」は4.3事件絡みの作品、観なかった人はDVDが出ているから観ることをお勧めする。
     「なにもおきない」どころか今作は、我々の多くがそのように信じ込まされていることを、一皮剝けばヤバイことや、眼を背けたくなる事実が絡み合い蝟集していることをこそ、告発している。


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    2019/10/18 14:35

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