どん底 公演情報 新国立劇場「どん底」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    鑑賞日2019/10/14 (月) 13:00

    座席1階A2列6番

     「どん底」を舞台で観るのは初めて。おそらく、40年ほど前に、映画で黒沢明の「どん底」とジャン・ルノワールの「どん底」を観ているのだけれど、あいにく筋立てはよく覚えていない。
    いざ劇場に入ると、舞台上には高架橋が。工事中の看板や金網があり、はっきりとこれは高架下だということがわかる。高架橋の中央には梯子が設置してあり、これは何に使うのか(実際、1度だけ使われる)。
     新訳ともなっていたので、観劇前は現代版への翻案なのかと訝しがってみるが、もうこの時点でギブアップ。原作なんてどうだっていいや。

    ネタバレBOX

    「どん底」は、群像劇ではあるのだが、軸となるのはルカの説く「美しいが嘘かもしれない現実」と、サーチンの説く「醜い現実に投げつけられる理想」との対立だと理解していた。しかし、この舞台ではそうではなかった。ルカが説くのは、安寧と平穏を獲得するための人間の知恵であり、サーチンが説くのは、現実に寄り添いながら人々が共存する理想だ。数強と革命といった対立項は見られない。
     なので、ルカの登場とともに木賃宿を包み込む優しさに偽りはないし、サーチンが掲げて共感を勝ち得る寛容の精神は空しくない。この2役を演じる立川三貴、廣田高志の両氏は、そのキャリアと相まって、深い、真実味のある演技を繰り広げる。あくまで善を求めようとする2つの方向性のコントラストが際立っている。
     確かに、この舞台でも原作にあったであろう、絶望、嫉妬、悪意、憎悪、強欲は登場する。しかし、そこに諦観はない。希望の光はきちんと指している。
    そして、けして滅入ることがないのは、この舞台が役者たち(おそらく売れない)の演劇だという設定が大きな救いになっているからだろ。最後の酒盛りは現実と舞台が混沌としていて、むしろ気持ちがよい。

    ただし、先述の2人の役者さんと他数人を除くと、どうもセリフ回しが単調になる方が多く(なかには棒読み?という感じの方も)、やや興ざめになる場面が散見されたのも事実。このあたりがとても残念。ぐんと完成度を下げていた。

    休憩後の幕開け、立川さんが高架橋の後ろから出てくるときに、ガムを噛んでいる。それをイスに座るときに紙に包んでポケットに入れていたのは、いかにも草芝居です、という雰囲気を醸し出していて洒落ていたなあ。

    0

    2019/10/16 17:36

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大