ホテル・ミラクル7 公演情報 feblaboプロデュース「ホテル・ミラクル7」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     第七の罪は“色欲”ぞな! 総じて役者陣の演技がグー。小道具の数々もラブホらしい雰囲気をさりげなく・過不足なく醸し出している。

    ネタバレBOX

     例によって「ホンバンの前に」が入るが、今回は7回目、池田さんの脚本らしくこなれていながら意表を突き、センスの良さが光る。さて、今回の執筆陣は4名敬称略、上演順に「Pの終活」byハセガワアユム 「光に集まった虫たち」by本橋龍 「48 MASTER KAZUYA」by目崎剛 「よるをこめて」by笠浦静花
    「Pの終活」:
     3Pの話。中年男・黒田は既婚ではあるが孤独を抱えている。妻はもう一つの孤立と言う訳だ。彼は恐らくその優しさ故に、孤独の齎す懊悩に耐えきれず、既に疲れ果てているにも関わらず流浪し、世界屈指の大都会の不夜城とも言われる風俗界を漂っているのだ。ちょっとセンチな言い方をすれば彷徨(即ち生きながらの死)を生きている。
    一方、世界は風俗界と雖も活気に満ちているから、彼のような生きながらの死を生きる者には必敗の個人史しか刻まれない。掛かるが故に彼の人生は本質的に受け身であり、それは自ら流されゆく憂き身をマゾヒズムの更新に当てる他無いので、取り敢えず金にあかして3Pというスタイルを選び、ユキを指名し続けた。ユキは中々美しいが、バツイチ、子持ちである。初期の目的貫徹の為、黒田はアシスタントに奨学金返済の為この世界に足を突っ込んだ理樹を呼んでいるのであるが、黒田の懊悩は、この3人の関係を徐々に変えて行き、遂には彼自身自死を図るに至る、だが。

    「光に集まった虫たち」
     既婚の中年女とそのツバメ。ラブホにしけこんだが、虫嫌いの彼女の前にホトケノウマが現れ、コガネムシが現れ、玉虫が現れと次々に奇怪なことが出来する。而も深夜のラブホに正体不明の老女が出現、それまで宇宙の話等もしていたカップルの前に突然現れたこの老女は己の生まれた時の記憶を思い出し情景を語るが、宇宙人? 将又虫の精!? 夢のような時間の中で老女は蜘蛛に変身し、地上に出たら1週間程しか生きられない蝉となった中年女を巣に絡め取って今襲おうとしている。♀は子を産みたい。然し蜘蛛の毒牙が目前だ。

    「48 MASTER KAZUYA」
     珍しく勧善懲悪物。衣装は「ドラゴンボール」に登場する悟空のものと似ている気がするが。自分はもう漫画を読まなくなって長いので詳しいことは分からない。何れにせよ、4話の中で最もコミカルな作品である。というのもKAZUYAなる若者は四十八手の奥義を極め、向かう所敵なしの性豪としてその名を馳せていたのだが、男性にレイプされたトラウマから一切の性技に反応しなくなった女性グループに快楽を取り戻させる過程で幹部の一人に完敗を喫してしまった。死に損なう程のダメージを負った彼の下へ師匠が現れ、初心を思い出させる。激烈な死闘の果てに漸くKAZUYAは雪辱を果たしたが。その根底にあったのは、好きになった相手のことを心底知りたいと願う心であった。幹部のうち1人は救ったものの、未だ組織には未知の強者が何人いるか分からない。KAZUYAの愛の喜びを回復させる戦いは続く。

    「よるをこめて」
     四作の中で最も大人びた内容の作品。一見すると、無論男女の関係を実に抜き差しならぬ正解等何処にも無いような形で提起した秀作だが、その有様を今作は、自我と本能のぶつかり合いに悩む互いに惹かれ合い、互いにこれ以上合うカップルは将来も現れないであろうと思うからこそ、妥協できない点が出てくることが自己自身の内的整合性を保つ上で許せないのだが、現実には同時に、互いの相手への思いやりもあって引き裂かれアンヴィヴァレンツな己を自覚するが故に答えの無い問いを繰り返す徒労感とインポテンツに増々出口の無さを自覚せざるを得ないが、自我の葛藤を創出する以上のような要素の複雑な絡み合いの中に抗い様も無く湧く本能と世間体やら習慣、常識という思い込みも作用して解決不能に陥り悩んでいる。ここに、金さえ払えば依頼者の秘密はキチンと守り、具体的解決策を齎すと評判の社の後輩が呼ばれ、二人の問題解決の為に第三者として関与しアプローチもするという話だ。
     ところで今作が現代日本社会の縮図とも解釈できる点についてだが、他人の悩みや弱み、必要や不幸に付け込んで、ちょっと知恵や頭を使うことで殆ど労せず、最大限の利益を確保するというのが、資本主義社会に於ける「正しい」生き方であるから、カップルより若い資本主義イデオロギーの申し子たる後輩はこの鉄則に従って行動し、まんまとかなりの額の現金を僅かな時間で稼ぐのだ。が、この有様が、当しく現代日本の経済構造そのものである所に作家の並々ならぬ才能を見る。無論、後輩が金を得た後、ラブホに来る前に呑んでいた店で散財し「“宵越しの金は持たねえ”主義なので」と嘯くことで、要領の良いこの後輩もチンピラの貧乏人に過ぎないことが表されている。何故なら宵越しの云々は江戸の貧乏長屋の住人が虚勢を張って言ったフレーズであることは、誰しもの知る所だから、ちょっと頭が回るようにみえても所詮、後輩もチンピラなのである。大人の苦い、苦い作品である所がグー。

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    2019/10/08 16:25

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