金星 公演情報 gekidanU「金星」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/04/29 (月) 14:00

    平成最後の観劇は家公演。
    日常と非日常の境界が取り払われる貴重な体験でした。
    以下、ネタバレboxにて。

    ネタバレBOX

    平成最後の観劇。
    きっかけはまたしてもフライヤー。

    前日、前々日に、
    「いつもの致死量」
    「私の娘でいてほしい」
    という傑作を観てしまっていたので、申し訳ないけれど、
    この2作を超えることはないよなぁと、なんとなく思いつつ劇場へ。

    と言ってもこの作品、劇場と言いつつもごく普通の一軒家のリビングで
    観劇するというスタイル。
    家公演というのは事前に知っていたけれど、ほんとに普通の家。
    全員合わせて20名くらいが壁際に分散して座って観る。
    当然のことながら席は狭い。

    その変わった趣向に期待するというよりは、正直、不安になる。
    自分は、例によって一番後ろの端の席を選択したのだけれども、
    結果的にその位置からだと、リビング全体が見渡せる。
    開演までの時間、リビングの端のキッチンではエプロンをした女性が
    卵焼きを作っていた。
    あまりにも当たり前のように作っているので、私はてっきり、主催の奥様が
    観客用に料理をしているのだと本気で思った。
    家公演なるものも何回かやっているようだから、もうすっかり慣れてる
    んだろうなぁなんて。

    それを横目にしつつ、なんかこれ意味あるのかなぁとちょっと
    思い始める。
    一軒家で舞台をやるのは確かに面白いけど、なんというか、色物的な
    面白さで、ちょっと本筋とは違うよなぁなどと思っているうちに、
    開演時間。

    なんとさっきまで料理をしていた女性は奥様ではなく役者様だった。
    まさかの開演前からすでに本編は始まっていたのだ(卵焼きが食べられなくて残念)。
    少しすると、こんにちはという挨拶とともに女性が一人入ってくる。
    そのおずおずとした姿勢に、これは本当に本編なんだろうか、それとも
    実はこの人はリアル客人なんじゃないだろうかと頭が混乱し始める。

    仕掛けとしては、本編の舞台はキッチンも含めたこのリビングであり、
    そこに陣取っている我々観客は、演者の視界には存在しない。
    舞台と客席を分割しているのではなく、舞台の中に我々が堂々と存在している
    格好なのである。

    こうして言葉にしてみると、ふーん、そうなんだ的なイメージしか
    わかないが、この没入感はとにかく凄まじい。
    現実と非現実の境界が非常にあいまいになり、不思議な感覚に襲われる。
    もうこの時点で、見事なまでに主宰の術中にがっちりはまった。

    失踪した夫を探すために集められた夫とつながりのある人々。
    産んだ記憶のない娘を名乗る少女。
    見ず知らずの他人同士が、会話を通じて失踪の謎を解きほぐしていくの
    だけれど、この会話が秀逸。

    没入感が高い故もあるのかもしれないけれど、会話のリアリティが高い。
    登場人物の設定もリアルで大袈裟な感じもない。
    なんというかフードコートで、隣のテーブルが丸聞こえ状態のような
    ある意味自然な感じ。
    必要以上に声を張る必要もないから「演劇っぽい話し方」は全くない。
    家公演というのは、こういう効果もあるのかと、ちょっと感動。

    謎が謎を呼ぶような話の持っていき方もリズム感があり、中だるむような
    シーンもなかった。
    核心に向かって物語は加速していくが、その加速具合も絶妙であった気が
    する。

    とにかく演者の皆様が素晴らしかった。
    中でも圧巻はダブル美月さんの木村美月さんと森谷美月さん。
    対照的な役どころではあるのだけれど、主治医(ミドリ...だったかな)
    がキレるシーンは距離感が近いせいもあるんだろうけど、こちらが
    震えるような緊張感。
    一方で、ガールズバーの店員(スイ...だったかな)が、雨が未来から
    やってきたことを確信してからの、雨に対する接し方が慈愛に満ちて
    いてグッとくる。
    特にメイクするシーンはちょっと込み上げてくるものがありました。

    最後は一応はハッピーエンド。
    みんなで食事をするシーンは、ふんわりとした優しさに溢れていて
    良かったけれど、そこから離れて佇むスイの姿がなんともほろ苦い。
    音楽的な演出と相まって、とても印象的なシーンに仕上がっておりました。

    さて、今回は勇気を出して、一部の役者様たちにご挨拶を。
    小学生みたいな感想しか言えなかったけど、役者様と言葉を交わすというのは
    貴重な体験でした。

    平成の最後を飾った『金星』。
    前日、前々日に観た別の演劇に引けを取らぬ名作でした。
    観劇出来て本当に良かった。
    役者の皆様方も、引き続き、追いかけていきたいと思わせる
    素晴らしい演劇でした。

    0

    2019/04/30 19:20

    3

    0

このページのQRコードです。

拡大