第27班 本公演9つめ『蛍』	公演情報 オフィス上の空「第27班 本公演9つめ『蛍』 」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     Bを拝見。

    ネタバレBOX

    時代設定はハッキリしないが21世紀初頭と考えて良かろう。舞台美術にスロープを用いるなどちょっとユニークで観易く合理的な作り。丁度舞台空間の天地左右ど真ん中辺りに立派な将棋盤。
     話は深刻である。であるが故に、錯綜した人間関係が中々明らかにされない。(例えば大学の演劇部なのに実際には将棋ばかりやっている部員たちは、互いを仇名で呼び合っているので、人間関係が捉え難いなどの手法が用いられていることなど)舞台の中心に将棋盤が置かれていることからも分かるように、横軸はずっと将棋の話だ。縦軸に画家一家の分解してしまった家族状況が、錯綜する時間軸を通して描かれる他、プロ棋士を目指すも3段から上がれず、25歳を迎えて最後のチャンスを狙う女性棋士、6段ではあるが足踏みしているプロ棋士。彼は妻との間に齟齬を抱えて苦しんでおり、弟子筋の女性と一夜を共にしてしまう。
     画家一家の息子・ヤマトは、10歳で故郷を離れるが、15歳年上の姉と約束を交わしていた。その約束を果たす為にプロ棋士を目指す。プロ棋士になってTVや新聞でも報道されるようになれば、再び優しい「姉」に会えるとの希みからだ。
     彼は久しぶりに戻った故郷の森近くで姉によく似た雰囲気を持つ若い人妻に出会い、またどこかでもう一度会いたいと思う。その思いは彼女も同じであった。而も彼女は、ヤマトが対極するトーナメントの6段の有力棋士の妻であり、6段の不調は妻との齟齬にあったようにも取れる内容なのだ。
     全体として韜晦の手法が用いられてはいるのだが、時間軸の設定も少々、難が在るように思われる。姉・マリノの死因はエイズだが、亡くなったのは彼が故郷を訪ねた3か月前であり、既にエイズは死なねばならない病では無くなっていた時期だと思われる。ヤマトとの年の差が15というのは、「姉」がヤマトの母、父は、画家。即ち実父と姉の父娘相姦の結果として生まれたのがヤマトであった。為に家庭は崩壊し中卒の「姉」はその罪を償うべく娼婦になって金を稼ぎエイズに感染、その後も娼婦を続けた模様だから、入院した時点で手遅れだったにせよ、また「姉」の病に関する情報が殆ど描かれて居ない為、詳しいことは分からないにせよ、手遅れになって入院してから亡くなるまでの期間は不自然なように思われる。
     また、タイトルにも採られている蛍が、命そのものを燃焼させる魂の象徴のようでありながら、恒星であれば高温を意味する蒼い光が冷たいことで、描こうとしたものが何であったのかが、韜晦という手法では伝わり難いとも感じる。ジェンダーやミートゥーというトレンドには本質的に載らない日本という「国」の抱える、恥じることさえ忘れ去ってしまった欺瞞を撃っているようにも思えない。時代のトレンドは、本質的に変化し、後戻りはできない所まで来た。にも拘わらず50年以上も前の1964年に行われた東京オリンピックで掲げられたイデオロギーの再生をしかイメージできない愚かな頭脳が目指しているものをもう少し深く穿ってほしかった。
    因みに1964年当時のイデオロギーとは、スピード、力、右肩上がりの強さだったが、現在の我々が目指しているのは、生活のクオリティー向上、災難や病災害への対応力向上、そして持続可能な社会形成であるから、イデオロギーや社会構造、そしてそれらを導く新たな価値観の創造も視野に入れる必要がある。このような観点から韜晦のレベルを再構成すると更に素晴らしい作品になると考える。

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    2019/03/21 14:31

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