Mの肖像 公演情報 劇団ヤリイカの会「Mの肖像」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

     3役を2人で演じる作品。つまり、1人2役を演じる役者が1人居る。(追記2018.7.10 04:00)

    ネタバレBOX


     板設定は、マンションと思しき場所。部屋は2部屋。下手の部屋は綺麗に整頓され、机上にノートパソコンを置いた机と椅子がある以外小ざっぱりした部屋、対するに上手の部屋には、バッグとエレキギター、段ボール箱が堆く積まれ雑然としていて対比を為している。整頓された部屋の主はミズキ、だらしない方の住人はムツだ。ムツの部屋の上手は収納スペースになっており、暗幕が掛かっている。手前に脚立が置いてある。また、この部屋の客席から見て正面奥に窓があり、新たに立つマンションの模様が見える。ムツが移ってきて直ぐ、ここには、カーテンが取り付けられた。
     さて、このカーテンレール中程が少し曲がっているのは、先ごろ自殺したエムが縊死する際紐を掛けたからである。
     エムとムツが1人2役で演じられるのだが、衣装替えなどが一切ない為、何か記号が欲しい。鬘をつけてみるとか、画学生だったエムにベレーを被せるとか小道具で表現できる。
     ところで、エムもムツも売り出し中の新進アーティストであった。エムは大学院の画学生、ムツはバンドのボーカル兼リードギタリストという所か、ギターは作曲に使っているだけかもしれないが。何れにせよ、ネット上では評価の高いアーティストとして注目株である。だが、この評判に嫉妬した者が居たらしく、彼女らの実名やプライバシーが晒された上に、誹謗中傷が渦巻く。エムの自殺はこの結果だった。その顛末が書かれた日記をクローゼットの天井裏で発見したムツは、余りに詳しく晒されたエムと自分のプライバシーや日常の描写からネタ元が同居人のミズキではないか? と疑う。彼女がネタ元であるという確証は描かれないが、最後までその疑いが晴れることもない。
     小道具として用いられるエムの自画像は、顔の部分を覆い隠すように洗濯物が描かれ、四囲に目が描かれているが、顔を隠してしまったこと自体逃げだと考える。佐伯祐三が発狂直前に描いた自画像は顔が破裂した特異な作品だが、自分はこの作品が頗るつきで好きである。逃げていないからだ。この点にこそ、彼の天才性を感じる。仮に今作の構図を採るなら、周りの目は、精神のガランドウを示すような空虚を映した目や、夜行性の猫が獲物を闇の中で狙うような表情を描いてもいい。何れにせよ、ネットの匿名性を利用して妬みの対象を自分は安全圏に身を隠しながら潰しに掛かる下司共の心象を描く目であって欲しかった。
     また、2人の才能に嫉妬したのが原因と思われるネット上の誹謗中傷パターンが同質のトーンで描かれているのだが、2度目のムツの時には、更にそのような恐怖が観客に迫るような音響効果を用いることも考えたい。
     欲を言えば、尺は伸びるであろうがミズキがエムの自殺にも、ムツの暴露にも案外平然としていることの理由をもっと描き込んで欲しかった。つまり単に優等生としてのエリート意識でアーティストという不安定な道を選んだ二人を対象化して見るのではなく、人としての不自然を納得させるだけの彼女の抱える心の闇も描いて欲しかったのだ。

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    2018/07/08 11:54

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  •  お疲れさまでした。遅くなりましたが追記しておきました。参考になさって下さい。
                                     ハンダラ 拝

    2018/07/10 04:01

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