時代絵巻AsH 其ノ拾弐『白煉〜びゃくれん〜』 公演情報 時代絵巻 AsH「時代絵巻AsH 其ノ拾弐『白煉〜びゃくれん〜』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     真の主人公は、誰か?(華4つ☆)

    ネタバレBOX

     幕開きは平家琵琶の音と共である。謳われるのは、日本最大の叙事詩、平家物語である。誰でも知っているその冒頭“祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 娑羅双樹の花の色盛者必衰の理をあらはす 奢れる人も久しからず ただ春の世の夢の如し 猛き者も遂には滅びぬ 偏に風の前の塵に同じ”というアレである。今作、表向きは、頼朝、義経の父に当たる義朝が主人公であるが、この冒頭、そして史的人物評価の点から見ると、矢張り真の主人公は、後白河ということになろう。
     扱われた時代は、保元・平治の乱の頃であるから1156年から1159年辺りを中核とする鎌倉幕府成立前の一時期。権力の実権が、貴族から武士へ移行するきっかけになった時代ということになる。義朝、清盛も未だ若く、各々が源氏の棟梁、平家の棟梁となった頃である。天皇の実権が揺らぎ、上皇や摂関家は実力を互いに行使し合うことも、己の力と政治力だけでは最早困難となって千日手のような、三竦み状態にあったと見て良い時期、各有力者は、何かを目論見、実行に移す時、新たに台頭してきた武士階級に依存せざるを得なくなっていた。だが、制度及び権威は相変わらず貴族の側にあったし権謀術数も貴族サイドに牛耳られていた。興味深いことに、新興勢力である武士の意識も己が棟梁としての正当性を担保する為には朝廷の権威を必要とした点だ。桓武平氏、清和源氏という呼称を上げるまでもなく、その根底にあったのは、血の、即ち血統の優位性である。このような意味合いに於いて、日本という国の現代にも続く前近代性という特質は、顧みられねばなるまい。
     閑話休題。自分が今作の真の主人公だと思うのは、実は今様狂いの後白河である。彼の編ませた「梁塵秘抄」に登場する“遊びをせむとや生まれけむ戯れせむとや生まれけむ”は、今作の中で何度も繰り返される。双六も同様である。一方、囲碁や将棋も政治の駆け引きに散々用いられてきたことは、歴史の示す通りであり、今作では双六が用いられていることは一目瞭然である。
     第七十七代の天皇として即位した後白河は、己が、中継ぎでしかないこと、己のように高位な皇族にあっては、バカのふりをすることが生き残る条件であること、有為転変の憂き世を過ごすには、倦怠の直中で遊びに活を求める他に道が無いこと等々を実に良く知っている。その彼が、他者に君臨するに当たり一種のゲームセオリーを用いている点にこそ、彼の抱える地獄が現れているのであり、彼の命令の非人道性も単に時代や封建体制の産物というより、アンニュイという名の怪物の所為であると捉えたい。同時に彼自体、このアンニュイの中で、唯一の武器である知を用いる怪物として顕現している。
     以上のこと総てが、冒頭の平家物語に照応していると見るのだ。従って、自分の解釈では、後白河こそが主人公なのである。

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    2018/06/07 11:11

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