美愁 公演情報 The Vanity's「美愁」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     脚本の完成度の高さ、演出の上手さ、歌の上手さに踊りの切れが加わり、更にエレクトーンと二胡の生演奏の響き、悲劇の色調を耽美なまでに表現してくれた。見事である。終演後には、ゲストとThe Vanity’sメンバー3名のうち今回は出演していない1名を除く2名が歌を披露してくれるおまけつき。こちらも聴くべし! (追記2018.4.27 02:40)
     

    ネタバレBOX

     物語は、架空の国のある裕福な商人の家。落雷の轟音と共に赤子の泣き声で幕を開ける。この演出が、先ず巧みである。観客をビックリさせて虚を突き劇空間に引き込む手段であるが、これが効果的であると同時に生まれて来た子の将来を暗示して見せている訳だ。商家とはいえ、名高い家の長女の誕生は呪われていた。顔の左反面に引き攣れを伴った大きな痣があったのである。龍家の主人・龍仁は、すぐさま我が子を無き者にせよ、と妻・美羽に申し付ける。然し、妻はそれを望まない。そこへ妻の姉・鈴が助け舟を出す。要は龍家の子ではなく赤の他人として育てれば問題は無い、と。鈴は龍仁を説得し、この家にあって使われていなかった離れでこの子・呉葉を育てることになった。将来、健康な子を授かった暁には、この子が御付の者として仕えるようにしようというのである。19年が経った。呉葉は利発で真っ直ぐな乙女に育ったが、龍仁は家格を重んじ一切の肉親の情を与えなかった。一方生みの母・美羽は、内心自らの罪の意識に苛まれていた。というのも娘にこのような酷い痣が出来たのは、己が若い頃から使用していた禁断の麻薬が災いしたからと知っていたからであった。己の咎ゆえに娘を不幸にし而もその罪の証が、今、新たに生まれこの家の娘として育てられている柚杞の御付の者として不幸な暮らしを余儀なくされ、いつも罪の源泉たる自分の前に居るのだから耐えられない。この状況は、麻薬を続けることの理由になった。例え見付かれば死罪に処せられようと。
     一方、柚杞には国の武官を代々勤める楊家から縁談の話が持ち込まれていた。父も乗り気である。話はとんとん拍子に運んで愈々、輿入れの儀式が行われようという頃、柚杞が結婚すれば、彼女について嫁入り先で仕えよ、との父の命を受けて遠方へ旅立つ前にどうしても実の母の目を真っ直ぐ見、抱きしめて欲しいとの望みを持つ呉葉は愛される条件として母の言った痣の無い顔を手に入れようと禁断の地・水仙の森に住むという魔女の下を訊ね、痣を消す代わりに、人を殺すことを命じられれる。半信半疑で呪いの札を受け取った呉葉は、其の札を鈴に渡す。これがもとで鈴は命を落とすが、本当に呉葉を愛し、彼女の為を思って色々と面倒をみてくれた命の恩人を呉葉は自らの手で殺してしまった。
     更に嫁に行く柚杞は、美羽の娘ではなく、本当は、鈴と龍仁との間に出来た子であった。エピローグ。己の狭い了見の故に命の恩人であり、育ての親でもある鈴を殺してしまった呉葉は、10歳の時美羽に貰った、母に愛された証である簪を返し、自分は魔女と交わした皆から忘れ去られる寂しさと苦悩を受け入れ、遂に麻薬エキスを用いて自死。以上が物語の顛末。この救いの無さにこそ、自分は、救済を見た。何故ならそこに無意味の意味が見えるような気がするからであり、ニヒリズムの肯定を見るからである。人類は矢張り意味が無かったことの文化的例証を一つ新たな形で観たことの安心感とでもいうか。最早、ヒトという生き物の愚かさ故に滅ぶしかない地球上のあらゆる生命の末路だけは、予めレクイエムとして謳うことが出来たかも知れぬという下らない自惚れを最後の自嘲として。
     

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    2018/04/25 00:22

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