リチャード三世 公演情報 芸術集団れんこんきすた「リチャード三世」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     今作、最大の特徴は、「時の娘」を埋め込んでいることだろう。(追記2018.4.27 01:32)華5つ☆

    ネタバレBOX

    「時の娘」と言われてピンとくる方はそう多くあるまいが、シャイクスピアが、今作を書くに当たって資料とした文献は、勝者ヘンリー7世を正当化する史家のものしたものである。つまりチューダー家のプロパガンダとして書かれた史書をベースにしているとして、これに反した解釈を述べた本のタイトルが「時の娘」なのである。
     残っている歴史というのは、勝者の歴史に過ぎない、との歴史見解があるが、それを地で行った書物ということが出来よう。
     脚本家の奥村氏は「時の娘」のエッセンスを要約すると同時に自分自身の批評を込めてラストの科白を創作しているが、この科白によってシェイクスピアの傑作、「リチャード3世」という大作をひっくり返してもいる。詳細は追記するが、流石というしかあるまい。
     役者で気に入ったのは主宰の中川さんの、死神のようなイメージから「時の娘」に描かれたもう一人のリチャードの荘厳な佇まいに至る演技は無論のこと、リチャードの妻・アンを演じた木村さん(受け身で緊張を強いられる難しい立場を見事に演じた)、王女のエリザベス役を演じた佐瀬さんは、作品としての「時の娘」を体現してみせた。更に爽やかで聡明なエドワード王子を演じた中村さんも聡明故に己の位置を正確に知る王子の覚悟を演じて見事であった。

     多くの方が指摘しているように、噛む役者さんが複数いたことは事実で、残念ではある。然し、経済的基盤のしっかりした劇団の公演や、ヨーロッパの演劇環境と日本のそれとは大いに異なる。民衆の文化に対する感覚が異なるし、人間的なレベルでアートに対する考え方の基本も大きく異なる。こんなこともあってか、役人の文化政策自体、ヨーロッパ先進国に比べてお話にならないレベルである。標準語なる言葉が恰も存在しているような文部行政の言葉感覚も全く肯んじ得ない。少なくともヨーロッパの先進国は、標準的な言葉を定める為にその国のトップクラスの国語学者がチームを作って世紀を跨いで辞書を作る。だから、語源や初出から、時代を追って変遷してゆく意味から現代使われている言語表現をどのように位置づけるか等々を延々とやり続けている。そして例えばアカデミーフランセーズのような機関が国語全般に亘って侃々諤々の議論をして正しい言葉、用法を示して基準としているのである。日本でこのような基礎作業もせずに標準語などと言っているから、僅か数十年の間に送り方などが変わって混乱を来したりするのだ。全く何をやっているのだか、国民の貴重な税金を使って、監視社会を作ろうなどと馬鹿なことをしている。おっと、話が逸れ過ぎた。
     何れにせよ、人間社会の根底を為す言語に対する「国家」の態度がこの程度のものであるから、文化行政などあって無きが如きお寒い状況であるのは、芝居好きなら誰でも知っている事。こんな状況があって、小劇場演劇に携わる人々の多くが、生活の為に何らかのアルバイトをしつつ芝居をやっているという事情がある。シェイクスピアは、天才中の天才、その彼の天才ぶりは何処に発揮されているかというと、その科白によって登場人物の全体を活き活きと描いていることにある。その分、一つ一つの科白が長くなり、どうしても練習時間の少なくなりがちな小劇場出演俳優には負担が掛かる。無論、それでも噛むこと自体は避けられればそれに越したことはないし、噛むことの無いよう努力する必要がある。だが、このような状況を斟酌することも必要なのではあるまいか? 無論、脚本を書いた感受能力の高い奥村さん自身、これだけ密度の高いシャイクスピアの科白を刈り込むことには、大変な苦労をしたに違いない。感受能力が高ければ高いほど、その困難は増し当に死闘であったろう。同時にこのような脚本家は、今自分が生きている地域、時代、世界情勢についてもヴィヴィッドで高い感受性を具えてもいるものだ。そして更に優れた批評意識も。即ち今回脚本化としての原作を刈り込む作業は、感受性と批評意識との壮絶な戦いであったと考えられる。この作業が、高い精度で為されたが故に、ラスト部分で、この傑作を全く古びさせず、而も現代における差別史への視座、力関係やプロパガンダによって歪み得る我らの認識とこの事に対する批判及び反批判を通じての客体化、フェイクとファクト、それらを見極める知恵としての総てのメディアに対するリテラシー、これら諸問題に対するにあたり己の立ち位置と批評眼を如何にバイアスから解放し、メディアリテラシーを根拠づけ、世界に解放してゆくかに賭けたハズである。お疲れ様。一言ねぎらいたい。

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    2018/04/21 02:05

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  •  追記遅くなりました。
           ハンダラ 拝

    2018/04/27 01:33

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