若手演出家コンクール2017 最終審査 公演情報 一般社団法人 日本演出者協会「若手演出家コンクール2017 最終審査」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     男道ミサイルという宮城の劇団、観劇前未見だった2つ劇団のうち決勝に残るチーム2つの内の1つとして予測していた劇団が矢張り順調に勝ち上がってきた感じが強い。

    ネタバレBOX

    大地震、大津波そして福島第1原発人災三重苦を背負わされた地域から予選を勝ち抜いてきたチームだけに天才脚本・演出家、笠浦静花が主宰する“やみ・あがりシアター”に対峙することのできる劇団の最右翼と踏んでいた劇団だが、見事にその期待に応えた形であり、否それ以上であった為、どちらを優勝チームに選ぶかが大問題になってしまった。
     何しろ開演前から板を挟んだ入り口側・対面に設えられたスクリーンに渋谷から下北を目指して走るタカシのライブ映像が映されており、それを座長役の本田が解説つきでアナウンスしているのだが、このトークが絶妙で芸質の高さを示している。一所懸命に走っているタカシの地方から出てきた故のルート選択の過ちを含めて一瞬の隙もない、フォロワーからの“いいね”“がんばれ”などの投稿が、画面上にリアルな協同感覚を盛り上げる。若者達が、大事なニュースや自分達の将来を決定する政治動向を間違え続けていることの原因の一つが、このような協同感覚に訴える手法のリアリティーに在るであろうことを実感させられたシーンでもある。それほどまでに効果的な演出であった。
     さて、本編に入ると劇小劇場に到着したタカシがルームランナーとでも呼ばれているのだろうか? 室内ランニング用の機械の上に乗り、走り始める。劇団の推移・状況説明や家族との関係、そして下敷きにしている太宰治の「走れメロス」の主題に絡ませた劇団内紛をドラマツルギーの対称軸としながら物語が語られ紡がれてゆく。この縒り合わせ方も巧みである。而も、通常公演と異なり江戸時代の歌舞伎のように飲食OK。音声・写真・動画撮影、ツイッターなどのSNSもOK。劇団サイドとしてもネットで本編同時中継をしているという。
     本編は、原作の本質を過不足なく抉り出してベースとすると同時に、アレンジを加え現在福島を含め被災県民が現実に向き合っている逃げ場のない状況を、原作の呈示している本質的問題の仮借ない追及と重ね併せて描いた後、終盤重く深いこの問題から、観客を日常感覚の世界へ連れ戻す為の創作を極めて手際よく加えている点も素晴らしい。
     タカシを演じた役者さんの体の鍛え方が半端ではない。無論、出演していた他の2人の役者さんの力量も大したものでああり、作・演出の澤野氏の力量も本物である。

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    2018/03/11 23:11

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