『パレスチナ、イヤーゼロ』 公演情報 フェスティバル/トーキョー実行委員会「『パレスチナ、イヤーゼロ』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    鑑賞日2017/10/28 (土) 19:30

    座席B列6番

    1948年に起こったイスラエル建国。その歴史的事業は、その地に住んでいた
    パレスチナ人たちを難民化させ、現在にまで続く紛争の端緒ともなっています。
    本作は、そうした民たちの生々しい被害の記録です。

    『パレスチナ・イヤーゼロ』というタイトルは、おそらくイスラエルとともに
    「パレスチナ」が悲劇的な形で誕生し(建国年としての「ゼロ年」)、また
    そこから少しも時が動き出さずにいる(静止し、凍り付いたままの時としての
    「ゼロ時間」)のふたつを意味しているように感じられました。

    ネタバレBOX

    この作品の語り部であるジョージ・イブラヒムは「損害鑑定士」として
    登場します。いわく、「考古学者になりたかったが、イスラエルでは
    パレスチナ人が考古学者になれる可能性はない」と。

    しかし、彼は「考古学者と損害鑑定士の仕事は同じである」とも喝破します。
    なぜなら、考古学者は「数千年前に起こった建物の破壊原因を診断する」が、
    損害鑑定士は「数日前に起こった建物の破壊原因を診断する」、つまり両者は
    同じ性格を持っている、というわけです。

    その彼が解説する形で、イスラエルが70年にわたってパレスチナに行ってきた
    家屋破壊の証言が観客の前にさらされます。

    イスラエル兵が隣の家に行くため、その手前にあった家の壁をぶち壊して
    突っ切っていく、

    古代のユダヤ民族がらみの遺跡発掘を行う最中の振動で、パレスチナ人の
    家の壁にひどい亀裂が生じる、

    こうした物質的破壊はもちろんのこと、取材に来た「左派知識人」である
    ユダヤ人学者の「一見人道的な」、しかし無神経な発言もパレスチナ人の
    心を破壊していきます。

    こうした証言が終わるたびに、事務所に見立てた舞台セットの背面を大きく
    占める書類棚から段ボール箱が運び出され、中のコンクリやガラクタ片が
    何度も何度もぶちまけられます。

    書類とは「記録」のために用いられるものです。しかし、そのための箱には
    がれきの山しか入っていない。まるで、パレスチナ人の70年の記録とは、
    そのまま破壊され、粉砕されたコンクリ群である、といわれているようでした。

    最後に、「損害鑑定士」だったはずのイブラヒムが役柄を乗り越えて、自らの
    皮肉な過去を振り返るのが痛烈でした。

    3歳で生地のラムレを追われ、以後、還ることができなかった。しかし、娘が
    反体制運動に加担し、当局に捕まり、ラムレの拘置所に送られた奇縁で、
    今まで還ることのできなかった生地にあっけなく訪問できた、という物語。

    自らの歴史を語り終えたイブラヒムは無言のまま、がれきの上に新たな
    段ボールを箱を無造作に積み上げて去っていきます。まるで、明日もまた
    破壊の記録が新しく綴られることを示すようで、頭が真っ白になりました。

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    2017/10/29 20:37

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