燃えあがる荒野 公演情報 ピープルシアター「燃えあがる荒野」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    船戸与一原作「満州国演義」…揺れ動く時代の奔流の中、無残に、歴史のはざまに棄てられていく若者たちを描く3部作」の第一弾。軍靴の音が高く響くようになった昭和初期、満州の地を舞台に壮大な叙事詩を思わせる。時代背景、その深刻な状況下で、一人ひとりの人間の生き様を丁寧に描いた公演である。

    本公演は深いテーマの追求、映画の「フィルムノワール」に対し、演劇で「テアトルノワール」という新しい分野を創り出したいという野心的な作品でもある。
    物語は日本国内・満州という地を交錯させるような展開で、登場人物も多く置き去りにされそうになる。そこは当日パンフ(写真掲載するためコート紙を使用。B5版二つ折り)に、物語の展開(登場順)に沿った配役が記されている。前文、演出のことば(森井睦 氏)、そして満州の豆知識が記載されており、オーソドックスな構成だが、公演を興味深く観させるための工夫が施されるなど丁寧な作りである。

    (上演時間2時間20分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    セットは満州の壮大さ荒野をイメージさせるものであろうか、段差を設けた草原風景、所々にススキも観える。板中央に切り株3つあるのみのシンプルなもの。

    物語は1920年代後半、張作霖爆殺事件あたりを背景に、敷島4兄弟の生き様を中心に展開する。その展開は映画のクロスカッティングのようで、同時代のそれを別の場所を交錯させることによって臨場感・緊張感を生むような構成で、壮大感を表そうとしている。その手法によって観客が物語の繋がりを感じられないことがある。しかし本公演では、人物描写や視覚的表現を駆使してその克服を試みようとしていたが…。確かに人物造形は感じられたが、映画・映像と違って同一セットでは場所の違いを視覚で観せるには限界があり、観る者の想像力に負うところが大きいと思う。

    物語は日本国内と満州を交錯し、国内は耽々と不穏な空気が流れ、一方満州における修羅現場と茫洋な雰囲気の対比、そして人物は相貌を変え動き回る。日本海を挟んで昔からの深い関係にあった大陸と日本の近代史が人々にもたらした不幸。その構図を兄弟の生き様として持ち込む。そして社会の底辺にまで浸透して強者・弱者の構図を浮き立たせる。といっても当時の社会のヒエラルキー構図が直接の対峙して映し出される訳ではない。そこには閉塞・緊迫という状況、時代という大きなうねりが立ちはだかっているという表現である。その時代に個々人が翻弄されていく姿がしっかり描かれる。そして最悪な不条理である戦争に向かって突き進んでいく、その抗し難い状況が重層的に立ち上がってきて実に観応えがある。

    公演でも日本国内の出来事は、なるべく四隅の小スペースを中心に演じていた。このセットは今後(第2弾、第3弾)へ引継ぎ、日本国内から満州国へ主舞台が移ることを示唆しているのであろうか。なぜなら4兄弟は、それぞれの信念と理想を持ちながら、満州国へと巻き込まれていくのだった…とあるのだ。

    次回公演も楽しみに、とても待ち遠しいです。

    0

    2017/10/20 18:52

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大