おんわたし 公演情報 SPIRAL MOON「おんわたし」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     流石! 話の持って行き方が素晴らしい! 島に暮らす人々の温かさ、素朴な人情の持つ力を描いて見事である。(花5つ☆)

    ネタバレBOX


     メインストリームは、12歳で重大犯罪を犯して施設に10年間もの間送り込まれ、そこで人格改造を行われた若者、保(現在22歳)が保護司(中村)に連れられて来島、役所の紹介者(平良)を通じて郵便局長が預かることになる。因みに保の個人史に関しては保護司、平良、保自身の誰も語らなかった。然し、真面目に仕事をやり、礼儀正しい保の態度がぎこちなくとも島人達は彼を受け入れようとしていた。だが、人にも仕事にも慣れて来たハズなのに、保は決して笑わない。島人達の温かさは恰もそれが自分達のせいででもあるかのように気遣うのだが。矢張り、彼は笑わないのだ。そこで、事情を紹介者の平良に訊ねてみることにした。保の事件の実相を聞いた面々は、保に対する判断・対応を個々で決断してゆくことになる。(島で保を預かる際、責任者となった局長は好意的である。局長不在の際、万屋件喫茶を兼ねる店を任されているしっかり者のアルバイト、珠代は否定的だが、本人に気取られるようなことはなく、この万屋に入り浸りの寂しがり屋、吾郎には、おしゃべりで空気が読めないので、このことは秘密にしてある。)
    ところで、この島で民宿を営む玉城夫婦は、バイト(政男)が相談も無く九州へ出てミュージシャンとして売り出そうと島を抜け出してしまった結果、唯でさえ唯一の売り、島一周遊覧コースが船の故障でへたっている上、稼ぎ時の夏季に民宿が回らないと大騒ぎしていた。そんな折も折。団体客の予約が入った。困り果てた玉城夫妻は「保を仕事に寄こしてくれないか」と相談しにきた。局長のOKも出、保も否定しなかったのでこの件は決まったのだが、間もなく保は仕事を放り出して逃げ帰ってきた。何でも「来客の誰もが、彼の顔をじろじろ眺める」というのである。保自身が最も事件のことを気に病んでいたのである。
    さて、ここにサブストリームが巧みに絡んでくる。オープニング早々、局長が海辺で暇さえあれば石投げをやっている話が伏線として出ていて、その折、コーラ瓶を拾って持ち帰った。中に何か入っていたからである。それは12歳の少女が10年前に瓶に詰めて流した手紙であった。手紙には彼女の名前、住所と解けずに悩んでいる連立方程式問題が記されていた。玉城が解いた回答と万屋スタッフの写真“良かったら遊びにいらっしゃい”との招待のメッセージを、記してあった住所に出した。暫くすると局長宛に便りが届いた。成長し短大を卒業後、就職、現在は結婚していると最近の消息を伝える彼女からの返信であった。
    返信が届いて暫くすると島に中年の女性(松原)が訪れた。彼女は瓶の手紙少女の母であった。届いた手紙は、実は彼女が認めたものだった。娘は中学受験に失敗、自殺を遂げていた。教師をしていた母が、一番身近に居た12歳の娘の発したSOSに気付くことができなかった。彼女はそれを恥じて教師を辞め、離婚した。だが、島からの温かい返信に対して嘘を吐いたことが申し訳なく詫びに来たのであった。
    そんな母に局長は、娘と同い年で重大事件を起こし、まともに学校へも通えなかった保に夏の特別授業を頼む。母は、娘を失くした原因を根底から覆す為、保に教えることを選ぶ。実の親からも人間として向き合うことをしてもらえなかった保は、生まれて初めて、人の情けを知り、本音を漏らそうとするが、その場に現れた保護司中村に、本当の自分と事実を晒すことを拒否される。
    因みにタイトルの「おんわたし」は、他人から受けた恩を隣りの人に渡す(返す)こと。この島の道徳法である。今作の随所にその例が見受けられるが、終盤、松原と保の真剣勝負で、この概念がいかんなく発揮され、成就する様は類ない。見事である。

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    2017/07/13 16:55

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