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ビザール~奇妙な午後~
観てきた!クチコミ一覧
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公演情報
一般社団法人 壁なき演劇センター「
ビザール~奇妙な午後~
」の観てきた!クチコミとコメント
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ハンダラ(10491)
満足度
★★★★
日本では珍しいセルビアの作家、ジェーリコ・フバッチの作品。(追記2017.7.3)花四つ☆
ネタバレBOX
日本では珍しいセルビアの作家、ジェーリコ・フバッチの作品は、ベオグラードに立つ16階建てマンションに巻き起こる3つの騒動を1幕3場の劇に仕立て上げた作品だ。セルビアと言えば近い所では、ユーゴ解体以降のゴタゴタが挙げられるし、第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件の実行犯、プリンツィプがボスニア系セルビア人であったことでも知られる。
ところで今作、セルビアがユーゴスラビア社会主義連邦共和国の中の社会主義共和国であった1922迄、そしてユーゴスラビア連邦共和国のうちの共和国(1992から2003迄のうち)凡そユーゴスラビア共和国の一員として経済制裁を受けて大打撃を受けていた時代の物語であり、ソ連崩壊とその直前の東欧解体のあおりも受けて、政治的、経済的、社会的システムの大転換が起こり、人々は混乱の坩堝に追い詰められていた頃の話である。当然のこと乍ら、価値観の大転換が起こり、自分の力で生き抜いていけない者、自分の頭で考え抜くことをしてこなかった者らのみならず、運を掴み損なった人々は、転落の憂き目を見、地獄を味わったことだろう。そんなことがあったに違いないことは、一応、アメリカと違って品位を問題としてきたヨーロッパの人間が多種多様な悪口、罵詈雑言を吐くシーンが織り込まれていることで推察できる。無論、作家はそれらよりもっと酷い状況を観て来たに違いないし、薬でもダウン系のアヘンが登場していることでも出口がマイナス方向にしかないことを示唆していよう。何れにせよ、アルフレッド・ジャリならMerdre! と言って憚らない状況がここにはあったハズである。そしてこの地獄はアメリカによって齎されたものであった。(興味のある方は「戦争広告代理店」を読んでみよ)
何れにせよ、アメリカの齎した一つの地獄を生きた人々をベースにした作品として今作を観ることができる。
舞台美術は、加藤ちかさんだが、舞台最奥部スクリーン手前だけが、踊り場的にフラットで、その手前全体は勾配の異なる3つの坂で構成されており、踊り場奥に据え付けられたスクリーンに翻訳が表示される仕組みである。各勾配には長方形や正方形、三角の切り込みが2つずつ施されており、ここから出捌けが行われるが、何れの蓋も始めは閉じられており、この蓋を押し上げて奈落から役者が登場する。最下段の勾配の客席側、狭い平部分には、この物語の舞台となる16階建てマンションの模型のような木箱が立っており、窓、車などの絵が記されている。また奥のスクリーン手前上手には開いたパラソルが突っ立ち、彩を添えると同時に舞台美術のアクセントにもなっている。
一場は屋上で物語が展開する。下着一つになった男が寒さで蒼褪めながら飛び降りようとしている。というのも、一旦は国を出たものの、上手く行かずに舞い戻り、而もナケナシの金を投機に賭けて失敗したのだ。そこへ、アヘン中毒の男が尻にアンテナを突っ込んだ状態で現れ、自殺志願者と出会う。さっさと飛び降りる決断がつかない下着男とアンテナ男とのチグハグで互いの適確な距離を取りかねての対応に薬中のスケ迄登場して話に色が付く他、サッカーの試合を観る為に薬中の尻にアンテナを立てていた男が、アンテナを外されてTVが映らないと文句を言ってきたりのまぜっかえし、家計を助ける為にストリッパーをしていたこともある下着男の妻などが登場して、良い所無しの男が迷っているうちひょんなことから殺人を犯してしまい、結局はそれがきっかけになって飛び降り自殺を成功させる顛末が描かれる。
他、警察の幹部になって2年前から親友の女と懇ろになっている男と、フラりと舞い戻って来たかつての親友は、湾岸戦争で子供を射殺したことが原因でPTSDを患っている。その親友に中々魅力的な娼婦を当てがってかつての親友の女と自分は懇ろな関係を続けようと考える副総監と、元カノの心の揺らぎには関わりのない所で、深く傷ついた者同士、つまり湾岸帰りと娼婦とが、こちらも飛び降りをしてしまうという結末の二場。
更に三場では、暴力とコネと金でしかいい思いができないこのどうにもならない状況の坩堝の有様が、チェロキー程度の車を異常に大事にしているマフィアボスの拘りとして描かれる。コネの具体的な展開は、副総監とボスの繋がりである。互いによろしくやっていたのだが、チェロキーをレッカー移動しようとしてボスに呼び出され、先日母国に戻って来たばかりでこのコネクションを知らず脅された新米警官が最後の最後に反撃、ボスらを殺すのだが、自殺した二組が、相次いでチェロキーの上に落ちて来たことが、盗難防止などで異常時に凄まじい音を発するヨーロッパの車用警報機がけたたましく二度鳴ることと、現場から戻ったボスの部下が返り血を浴びて真っ赤なシャツを着ていることなどで、登場人物の2割が飛び降り自殺で死ぬ、という凄惨な状況を示唆していると同時に、ボスが異常に大切にした車が、セルビアを地獄に追い込んだ張本人であるアメリカ製だというアイロニーにも繋がっていることが面白い。
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2017/07/01 00:47
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