淵、そこで立ち止まり、またあるいは引き返すための具体的な方策について 公演情報 カムヰヤッセン「淵、そこで立ち止まり、またあるいは引き返すための具体的な方策について」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     仲の良い母子家庭で38歳になる息子が母を殺した。花5つ星

    ネタバレBOX

    犯人も母殺害に関しては早くから犯行を認めているが、頗るつきに優しく見えるこの息子が、母を殺害する動機が腑に落ちない。担当する刑事は3人。その誰もが、この点に疑義を抱いているが、登場する役者は3名。総て刑事役である。だが、犯人役として4人目の役者はそもそも存在していないのだ。その代りと言ってはなんだが、犯人の代役として登場するのは、車椅子である。母を殺害した後、心中しようとした男は、足と言わず、腕と言わず、自分で刺して自殺を図った。その所為で取り調べは退院直後の48時間である。警察での留置期限は、通常丸2日と法で定められているからである。
     物語はこの48時間の間に行われた犯人と刑事との、また刑事同士取り調べ方法を巡る対立を通しての若手刑事の成長物語でもあるが、実際の取り調べ場面では、刑事2人、犯人1人の構図が最後まで貫かれ、浮いた役者1人が犯人の科白を語る形を採る。が、決して車椅子には座らない。この非在こそが腑に落ちないこと、即ち訳の分からないことXの象徴だからである。別の言葉を用いれば謎ということもできよう。いずれにせよ、刑事たちは真実に至る為に、この尋問と裏付け捜査を進めている訳である。
     さて、車椅子には犯人が座っていると想定される中で、劇は進行する訳だが、この非在への集中によって緊張感が途切れることが一切ない。何となれば、この非在こそ、想像力を投影する場そのものであるからである。この演出の素晴らしさは、最初から在った設定で、矢張りこの非在を巡って作劇されたという話も合点がゆく。
     更にこの”場”へのアプローチの仕方が刑事間で問題視されるのだ。というのも3人の刑事のうちの1人が、取り調べ中、己の事件解釈を犯人に強要し、調書をデッチアゲている点があり、先輩刑事が、注意しても中々己の非を認めたがらない。散々、諭しても理解しないので、一番の先輩に当たる刑事が、誘導強要している事例をカマを掛ける形で仕込んで見せ、その結果を証明してみせることで、若手を論破する挙に出る。こんな方法を採りたくないので、それまで抑えていたのだ。何となれば、精神的に傷を負わせることは、暴力的な怪我を負わせるより遥かに重い傷を、肉体にではなく魂に負わせるものであることを先輩は知っているからである。いずれにせよ、後輩刑事も、その後の様々な先輩たちからの働きかけに己の未熟を漸くにして知り、成長してゆく。こんなサブストーリーも見事に織り込まれ、改心した刑事の説得によって初めて犯人も腑に落ちる説明に至るのだが、犯人が、頼ろうとした社会的救済システムでの窓口対応の杜撰さや、認知症に陥ってさえ、残り続ける人としての母に誇りと存在の間の奈落、その奈落を、母を理解するが故に、共に爪を引っ掻けながらずり落ちてゆかざるを得ない状況に追い込まれた、心有る人間(犯人)の苦悩を描いて秀逸である。

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    2017/02/20 18:04

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  • 本当に素晴らしい作品を拝見できて嬉しく思います。
    カムイヤッセンの皆さん、関係者に感謝します。
                        ハンダラ 拝

    2017/02/20 18:19

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