ワンダフルムーン 公演情報 トツゲキ倶楽部「ワンダフルムーン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    バランスの良い秀作
     トツゲキ倶楽部19回目の公演にして初のミュージカル。因みにオペラ歌手1名、ミュージカル役者1名、ゴスペル歌手3名が参加していて、自分は殊にオペラ歌手のシャウトする唱法に痺れてしまった。この方、リズム感も抜群で肝心な所で皆をそれとなく引っ張ってゆく。その声の素晴らしさもさることながらパンチの効いた唱法が素晴らしい。

    ネタバレBOX


     シナリオもよくできたもので、何より設定が良い。時代設定は1969年。昭和44年だから高度経済成長期、場所は夫婦ともサラリーマンという典型的中流家庭の住む団地、希望ケ丘ニュータウン。朝出勤する時間帯も同じなら、乗る電車も同じ、給料だってどんぐりの背比べ。年齢も近い。子供が通う小中学校も同じである。何のことはない。退屈の典型でもある。そんな団地で死人が出た。発見者は腰を抜かしたが、妻が余り悲しそうなそぶりを見せない為「保険金をたくさん掛けていたの、ひょっとすると!?」だの「1か月ほど前に越してきた橘家も怪しい」等々との噂があっという間に蔓延する。
    退屈シノギとはいえ、怖い話である。序の部分で歌と踊りを交えながら以上のような布石が敷かれている点も見逃すことはできない。破ではこの橘家の話が中心になるが、この家の娘は唖者である、が聾者ではない。父は交通事故で亡くなっている。母が医者に娘をみせる中で娘に何が起こったのかが徐々に明らかになるのだが、その過程で団地の様々な噂は、団地で亡くなった人の死因に疑問を持った刑事の聞き込み捜査も絡んで増々信憑性を帯びてくる。一応死因は事故死として片付けられたのだが、死体の傍に犬の足跡のようなものがあったこと。死体の尻に噛まれたような痕があったこと。団地の子供が事故時「何かが現場に居て植え込みの方に逃げた」と話していたと母が井戸端会議の折に話していたことなどが演じられ、観客は物語に嫌も応もなく引きずり込まれる。
    さて、急である。噂が嵩じて橘家を追い出せとの話がまとまり団地住人が徒党を組んで橘家を襲うが。最後のドンデン返しは観てのお楽しみ。
    演出・構成も上手く、歌を上手に物語に組み込んで実にスムースに流れ乍ら、日本人特有の事大主義と人情の機微も織り交ぜて非常にバランスの良い作品に仕上がっている。無論、演技も面白い。(役者同士が結構競っている様が、実に団地主婦たちの微妙な競争意識を表しているようで興味深いのだ)
    舞台美術もちょっとユニークな作りだが、効果的である。無論、音響・照明などの効果もグー。ホントに初のミュージカルとは思えない。通常のミュージカルより芝居の要素が多いとはいえホントに大切なメッセージをキチンと含んだ秀作である。

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    2016/12/09 15:38

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