満足度★★★★★
動▶静
アマヤドリの武器は【動】だと思うが、今作は会話劇の【静】で新境地を披露。主宰の挑戦と劇団の可能性を肌で感じる。美しい囲み舞台と吊るされた蛍光灯にウットリ。椅子に乗せられた俳優の身体的拘束が心理的な自由を奪い、心に闇を持つ人物の言葉に魂を吹き込む。笠井里美さんが虚空を見上げながら、言葉に託す思いを語る背中が愛おしい。彼女の心の闇を照らすことのできるアイテムを、千秋楽までにゆっくり探してみよう。▶病は気からだとすれば、鬱は気持ちそのものではないだろうか。自覚と無自覚。どちらが救われるのか。闇を抱えた人たちの渦は他者を抱き込み膨れ上がる。彼らの闇に飲み込まれそうになったり、嫌悪を抱いたりした時に、ふと同調してくれる台詞にホッとする。一見まともに見える人物も闇を抱えている。それはつまり、われわれ誰にでもあること、起こり得ることを表す。自分の世界に堕ちていく時、人は引き、離れ溝を生む。当人には周囲の人の存在も心も見えない。我に帰った時の疎外感の蟻地獄から逃れる術はあるのか。今作に明快なメッセージを見つけるのは難しい。その代わりに、自己を見つめ直すことを促す。我は誰と生きるのか。言葉を使うことこそが人間の人間たる証であるなら、その力を信じ、より良く使えるようになりたい。それが大切な人と生きる術なはずだから。囲み舞台。それにはどんな作品でも場所によって見えるものが違うのだが、今作もそれぞれの方向から観たいシーンがある。リピートを強くお薦めしたい。ならば、フリーパスチケットとプレミアムチケットを、さらに強くお勧めしたい。▶続きはネタバレへ