心中天網島 公演情報 遊戯空間「心中天網島」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★


     近松門左衛門の心中物の中でも最高傑作の誉れ高い今作であるが、義理(人が人として守るべき人倫の道)と人情(例えば恋、己の理性で律すること能ぬ本能の齎す欲求)の機微を、これほどドラマチックにまた悲劇的に同時に美的に描いた作品は古今東西実に稀である。(追記は文化的なレベルで述べる。前段はここまで。追記2015.11.1午前3時)

    ネタバレBOX

    だからこそ、日本のシェイクスピアとも評される、近松作品の心中物の中でも最高傑作との評価が為されるのであろう。まあ、一般受けする評価などはハッキリ言ってどうでも良い。問題は、観た自分が評価できるか否かに掛かっているからだ。結論から言えば、自分は高い評価を下す。現代日本との直接的関連性を演出家が直接的に意識しているかと問われれば、その点では若干弱いと思う。だが、今作を今、掛けることを選び取った嗅覚ともいえる感覚は確かなものだと思うのである。
    愚衆ならいざ知らず、現代日本を単刀直入に見る目を持つほどの者ならば、日本がアメリカの植民地であることくらいは自明であろう。そして植民地として収奪され、誇りを奪われ、奴隷ですら持ちうる反抗の自由・権利を奪われて唯々諾々と従っている体たらくを情けないと思わぬ者は居まい。
    近松の生きた時代、国と言えば各藩の領内、そして各藩を統べるのは、徳川幕府であった。して、徳川幕府は何をやったか? 儒教のうち朱子学を幕府御用の哲学として採用し、以て人倫を支配、各藩が持つ軍事力に対する抑えとしては武家諸法度・参勤交代を加えた。天皇家を中枢とする公家に対しては禁中並びに公家諸法度を用いて縛り付けたのである。無論、江戸時代の人口構成の90%以上を占めた庶民からは、総ての有効な武器を取り上げて反抗の為の道具を奪い、豊臣 秀吉の検知以降、人民の所在を明らかにすることに努めたのみならず、538年に伝来し国教ともなっていた仏教のイデオロギー的側面を骨抜きにし、ここでも御用宗教即ち御用哲学と為して、檀家制度の元、人別帳の徹底化・人民支配に利用したのである。百姓が、人口の90%以上を占めた時代の実態は、水呑み百姓が大多数であり、長子相続という形式を守ってさえ食うや食わずの生活であったから、その生活の悲惨は、容易に推察できる。最も端的にそれが分かるのは人口の増加率によってである。1603年から1868年迄の増加率を観てみれば基本的なことは足りる。私見によれば今に至る日本人の畜生根性は、太閤検地によって人別帳を明らかにされ、刀狩によって反抗の為の手段を奪われた民衆が更に徹底的にイデオロギー的にも宗教的にも為政者によって収奪された江戸時代の簒奪によって完成されたと思っている。即ち人民は、数百年、馴致の歴史を持っているということだ。
    当時の世界の識字率の平均と比べて圧倒的に高い日本のそれは、この人口増加率の低さに矛盾したデータとして現れるのだが、そのことの意味する所が、今作の眼目でもある。
     江戸時代の日本語と三味線(中竿)、横笛、琵琶、太鼓、拍子木などと南京玉すだれのような形態のもっと重い木で作られた自家製の楽器などが用いられ、日本音階で奏でられるメロディー独特の声調とメロディアスな楽器としてのみならず、リズム楽器として用いられているのではないか(西洋の笛では殆ど考えられぬ)と感じられるような横笛の、空気を切り裂くような用い方が、時空を断ち切り、並行的な楽器のコラボレーションというより、輪唱のようなコラボレーションになっては、観客のイメージの中でいつか輪廻転生をも感じさせる。それが、今作にも表れる仏教観とも繋がり音楽と文学と哲学が微妙に折り重なりながら共鳴し合う。
     一方、ここには、道行以降異様に美しい日本語表現と共に、所謂封建制度下での制度的束縛より、人倫に悖るか否かの、即ち人としての倫理(義理)と恋(人情)に引き裂かれ苦悶する2つの実存の、深く切り裂かれた傷口から見える底知れぬ奈落へ、支えもなくずり落ちてゆく苦悩と共に、蟷螂の斧のように振り上げた反抗の意図もほの見えるようではないか。殊に五障の障りがあると山に入ることを禁じられる立場であった女性の小春が簡単に死ねないのはとどのつまり詰め腹を切らされるのが力の弱い女性であることの反証のようにも思えてならない。この辺りにも演劇の科白を単に意味を伝えるだけの記号ではないと捉えている演出家、篠本 賢一の姿勢が込められていると観た。
     無論、自分のように様々な理屈を持ち込む必要などなく、素直に様々な要素の輻輳する演劇のダイナミズムを楽しんでもらえれば、それで本質は掴めるように作られた舞台である。

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    2015/10/30 05:36

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  •  昨夜20回くらい返事をトライしたのですが、たぶん送れていないのだと思います。
    後送文章アップしましたをお知らせする文章だったのですが。いずれにせよ、高い評価
    おめでとうございます。私も自分のことのようにうれしく思っています。まだ、後送分お読みに
    なっていらっしゃらなければご笑覧ください。賢一さんにもよろしく。
                                          ハンダラ(長谷川 明)拝

    2015/11/02 02:51

    ハンダラさま
    ご観劇ありがとうございました。いつも含蓄のあるコメント、大変勉強になります。ありがとうございます。出演者一同、残りのステージの糧とさせて頂きます。
    また冬の忠臣蔵でもお待ちしています☆

    2015/10/30 11:25

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