その頬、熱線に焼かれ 公演情報 On7「その頬、熱線に焼かれ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ヒロシマの25人
    原爆乙女と呼ばれた女性たちがケロイドの治療の為に渡米したことは聞いていたが
    選ばれた25人の、その選択がどれほど苦悩に満ちたものであったか、
    改めて等身大の女性たちの声として聴く思いがした。
    戦後70年に相応しく、また女優7人のユニットに相応しい脚本が
    声高でないだけに、じわりと沁みこんで素晴らしい。
    隙のない演技の応酬が見応え満点、会話劇の醍醐味を味わった。

    ネタバレBOX

    対面式の客席に挟まれた舞台は極めてシンプル、ボックス型の椅子が4つのみ。
    冒頭、アメリカに到着したばかりの原爆乙女を代表して敏子(尾身美詞)が挨拶をする。
    長い髪でケロイドを隠すように俯きがちに話したあと、まるで義務のようにケロイドを晒す。
    大きな音でフラッシュがたかれ、その音に思わずたじろぐ。
    25人の原爆乙女たちは順番に手術をうけるのだが、
    ある日、簡単な手術といわれていた智子(安藤瞳)が、麻酔から覚めないまま死亡する。
    善意で無報酬の手術を引き受けてきたドクター側にも、原爆乙女たちにも衝撃が走る。
    これで手術が中止になるのは嫌だという者、手術が怖くて受けたくないという者、
    双方の意見が対立する中、死んだ智子と交わした会話を思い出しながら
    初めてそれぞれの思いを吐露していく…。

    麻酔から覚めずに死んでしまった智子が狂言回しの役割を果たす構成が秀逸。
    他者を受け入れる優しさと包容力を持った彼女は、生前ほかのメンバー達と
    深いところで触れ合う会話を交わしていた。
    そんな彼女との会話を思い出しながら、皆否応なく自分をさらけ出していく。
    同じようにケロイドがありながら審査に落ちた仲間たち、
    傷の程度を比較しては幸せを計り、妬んだり羨んだりする被爆者の社会、
    日本ではマスクして歩いていたがアメリカでは顔を出して歩けるという開放感、
    ピカによって損なわれた人生、容貌、可能性を、ただ想像するだけの生き方でなく
    アメリカで手術を受けることで変えようとする強い意志…。
    舞台はそれらを反戦や正義感から声高に訴えるのではなく、
    等身大の女性に語らせることで一層切なく理不尽さを突き付ける。

    「死に顔をきれいにしたい」という弘子(渋谷はるか)の言動が良きスパイスになっている。
    前向きに仲間同士励まし合って…という流れに逆らい、ひとり突っかかっていく弘子の
    緊張感のあるキャラの構築が素晴らしい。

    北風と太陽のように、じわじわと頑な弘子の懐に入っていく
    智子の強い優しさが印象に残る。
    安藤瞳さんの淡々と語りながら包み込むようなまなざしが、
    この作品全体を俯瞰している。

    片腕を失って尚、いつも周囲を励ます信江(小暮智美)が
    たった一人の身内である祖母の話をした時は涙が止まらなかった。

    ラスト、帰国した敏子は、髪を一つにまとめてまだケロイドが残る頬をすっきりと出し
    力強く感謝の意と希望を述べて挨拶をする。
    死んだ智子が微笑みながらそれを見ている。
    この終わり方が一筋の救いとなって、観ている私たちも少しほっとする。

    私はこんなに傷ついた身体になっても“生きていることに感謝”できるだろうか。
    木っ端みじんになった人生を立て直す気になれるだろうか。
    ヒロシマ・ガールズたちの強さは、そのまま哀しみの目盛りに重なる。
    昨今は学校における原爆教育そのものが敬遠されがちになっているとも聞くが、
    平和ボケ甚だしい日本にあって、このような意義のある作品に感謝したいと思う。

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    2015/09/20 01:45

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