満足度★★★★★
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日本人が未だ廉恥という感情を持ち恥の意味する所を知っていた頃、歴史の流れに翻弄されつつ、当に十字架を背負って生きた清朝皇族、粛親王善耆の娘、男装の麗人とも東洋のマタハリとも呼ばれた貴人、川島 芳子。その哀れと知られざる真実に向き合おうとした作家、加賀美(表現する者)の業、それら人の魂を政治的に利用する下司共をリアルに描いて見応えのある舞台になっている。
その模様は、義父であった川島 浪速に養子として迎えられたことになっているものの、その実、彼の玩具として与えられた人身御供であり、劇中、彼女が最も明かしたくなかった自慢の黒髪を切った原因として、浪速からレイプされたことが示唆されていることからも分かる。彼女はまだ15歳だった。養女として日本に来たのが8歳であるから、7年後のことである。日本人とは何という下司揃いであることか!
ところで、芳子が蒙古族のカンンジュルジャップと一旦結婚していることは、今作では描かれなかったが、3年後に離婚した遠因或いは原因は、浪速にあるかもしれない。そうみるのは勘ぐりすぎだろうか? だが下司ならば、正式に結婚した女性だとて、分け隔てなどすまい。倫理的一線を越えるか超えないかは、本人のプライドに掛かっているからである。プライドの無い奴はどんな汚いことでも平気でする。
芳子の写真を見ると、美人というより、可愛らしい女性という印象を受ける。既に亡くなったが、優れたノンフィクション作家であった自分の友人の印象にも重なる。恐らくデリケートで心優しい傷つき易い女性だったのではなかろうか?
自分の印象が正鵠を射ているとは言わないが、自分自身で川島 芳子即ち愛新覚羅顯㺭のことは、調べてみたい。そう思わせるだけの内容であった。