水槽【ご来場誠にありがとうございました。次回は12月】 公演情報 シアターノーチラス「水槽【ご来場誠にありがとうございました。次回は12月】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    堪能
    今回を含めてこの8年、毎年、長女さやかの夫、一成の経営する海辺のレストランの夏季営業に合わせて、オープニングスタンバイを兼ねた家族旅行をしている一家が、今年も例年の行事になったこのレストランへ行く準備をする姿が描かれる。

    ネタバレBOX


    ところで一つ、この家族には、特徴がある。兎に角、一昨年迄口より早く手が動いた暴力敵な父が、レストラン裏手の庭から、車椅子に乗ったまま海に落ちて亡くなっているにも拘わらず、アルツハイマーを発症した母が、その死を受け入れられないので、全員で父が生きていることを演じている。その点だけが、異様な家族なのだ。
    レストラン裏手は、坂になっており坂を下ると申し訳程度の柵を施した崖があり、その下は、無論、海である。亡き父は、一昨年、車椅子に乗るようになってから、急に生気を失い、当時は既に食も殆ど無く、口もきかなくなっていたが、時々、氷を口に含ませてやると喜んで嚥下していた。その為、末娘のゆいが、魔法瓶に氷を詰めたものを持参し、氷のかけらを取り出しては父の口に含ませていたのだが、事件当日は、皆、レストランの片付けに追われ、父の所在は片付けの足手まといになる為、長男、正文が、麦わら帽子を被せて裏庭に父を出したのだった。無論、車椅子のストッパーは掛けておいた。にも拘わらず、父は皆の気付かぬ間に海へ落ちて亡くなった。地元消防団や警察が協力して遺体を引き揚げたが、警察は、誰かが何らかの理由でストッパーを外したのではないかと疑い、全員を被疑者と見做して質問をした。結局、事故として処理されたものの、親族間で未だに、実は殺人なのではないか? との疑義が渦巻いている。そんな状況下での今年の出発準備である。
    この劇団の上手さは、このようなシチュエイションを提示しておいて、ずっと事故なのか、殺人なのかを分からぬようにしたまま、その緊張を維持して話を進めてゆく点である。途中、一成とゆいの不倫を匂わせるなど、ポツリ、ポツリと示唆的な事象を出して怪しさを増加させつつ、ひょいと以下のような挿話を入れて更に不気味な雰囲気を醸成するのだ。
     水槽は、海へ遊びに出た家族連れの客や子供達が海で採ってきた獲物を、レストランにそのまま持ち込まれては困るので、店入り口手前に水槽が置いてある所からつけられている。この水槽内では、普段、都会の子供達が目にすることの無い弱肉強食の生存競争が展開され、時に、採って来た獲物が、他の生き物の餌食になって子供達が泣くなどということも起こる。そんな挿話がさりげなく挟み込まれているのは、義母を預かっているさやかの夫への申し訳なさから、自分を恨んで欲しい、などという夫婦の微妙な人間関係の会話にも踏み込みつつなのである。即ち、どこにでもある夫婦の濃密な日常生活の淡々とした流れに淀む深みを示唆しつつ、また、母の、物事の是非をハッキリさせるさやかに対する嫌悪と長男の嫁律子に対する当てつけのような高評価、更には、律子の普段一緒に居ないから良い子ぶっていられるという現実的自己評価とが相俟って、多層的で面妖な、我々のそれに似た現実生活が透かし見えるのだ。
     上演中だから、結末は記さないが、サブマリンを意識させるノーチラスならではの作品である。

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    2015/07/26 13:06

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