祝祭 公演情報 Trigger Line「祝祭」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    問い掛け
     数年前、チェゲバラの娘さんにお会いしたことがある。感受性の鋭い、頗る聡明で、現実的で適確な判断を素早く下す方で、同時に溢れるような温かさを感じさせる方であった。会った者総てを虜にするような魅力を具えていて、忽ちファンになってしまった。彼女の魅力の最も大きな部分は、体中から溢れる温かさ、優しさであろう。太陽みたいな人ってホントに居るんだ!! と実感させるのである。彼女はキューバに住み、小児科医をしているのだが、子供達が注射を打たれる場合でも、彼女に打たれるなら、怖がりはしないのではあるまいか。

    ネタバレBOX


     彼女の話を出したのは、今作でゲリラ側リーダーとして描かれるホセのキャラクターを改めて考えたいからである。ホセの魅力も、その弱者に加担する優しさと聡明、倫理性の高さ、判断力の確かさにあるのは明らかだからである。それに反してフジモリをモデルにした大統領、フジヤマの品性の下劣は今更言う迄もあるまい。同時に当時のペルーに、どの国が具体的に関与していたのか、自分は中南米の専門家では無いので余り良くは知らないのだが、中南米を支配し、収奪と強奪を繰り返し、政権転覆の為にCIAや特殊部隊を用いて現地右翼に拷問、虐殺の方法を指導し、拉致、監禁、指導したことの実践をさせたのみならず時には国軍を使って住民を虐殺、国際金融機関などを用いて国家経済を破壊し、各国の中心産業である農業を破綻に導いた上で、モンサント等の遺伝子組み換え種苗を売りつけるなど、軍事、産業、経済総てを破壊してきたアメリカを疑うのは当然のことである。因みに肝心な事は総て秘密交渉で決められるTPPはこの流れの上に乗ったものであることは、認識しておく必要があろう。AIIBの設立にアメリカの手先機関であったIMFの幹部が関わっていたのはなぜか? そのことの意味するものを日本人は考えるべきなのである。現在の植民地支配の形態は、単に軍事的脅威による支配ではない。様々な力(軍事力・経済力・政治力・交渉能力・条約作成時の先見性等々)つまり、結果として双務契約に基づく形を採る。問題は、弱い側は、その国民の意見を無視したり反映せずに居る事なのである。
     リベルタが立ち上がったのは、このような不正義、不公正に対してなのであり、その正当な主張は、残念乍ら、現在も是正されていないのは、国際情勢に目を向ければ明らかなことであろう。
     今作は、かなり史実に忠実に作劇されているように思う。何故か? それは、観てくれた人に、即ち我々に再考を迫る為であろう。観た者には、観た者としての責任もあろう。
     良く出来たシナリオをスピード感と緊張感のある舞台にした演出の音響・照明の使い方、役者陣のしっかりした演技、事実を事実として(或いは真実として)提起する方法、センチメンタルに流されない理性的な創り方に深い共感を覚えた。
     役者では、ホセ役、西岡 野人、交渉役、カタオカの砂川 和正 司法省判事役、ヨシケン、リベルタメンバー・ミゲル役、藍原 直樹、日本大使役、和田 武の演技が気に入った。また主宰の林田 一高が、フジヤマの私設部隊メンバーを演じ、聖職者として、反革命サイドに生涯関わっていた彼の人生を好演した。難度の高い演技であり、皮肉な人生であるが、隋所でそれと悟らせながらであるのは、シナリオと筋展開の運び方、そして彼の演技の賜物であろう。以下、少し例を挙げておく。
    カタオカの妻になった女性を彼も愛していたこと、住民虐殺のドサクサに紛れて彼女をレイプし、その結果、彼女が妊娠したことが自殺の原因であったこと、ラストの特殊部隊突入の際には、革命部隊メンバー、殺害を禁じていたリーダー、フジヤマの暗部を法的に裁こうとした判事を、即ち良心的な人々を殺害してゆく姿は、現代の悪を描いて象徴的。だが、仲間である特殊部隊に銃殺されるようなアイロニーは、現在の日本に未だ存在するだろうか? というのも、今作の現在の日本への問い掛けではないか? 

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    2015/07/22 16:06

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