映日果-アンジール 公演情報 XZM「映日果-アンジール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    腐敗世界のダークヒーローの「プライド」こそが細川流「男の美学」?
    (ネタバレなしで言える点はと…)
    フライヤーと一緒に配られる無料パンフレットに
    記載されているプロデューサーの
    「かっこいいスーツの男たちを細川流脚本/演出で観たい!」、
    観劇していて痛いほどその気持ち
    (男たちの渋さ、ハードボイルドさ、それら醸しだされるかっこよさ)が分かりました。


    (物語を褒める前に)
    まず本作、(細川流演出の基本なのか分かりませんが)
    照明の使い方が素晴らしい。

    「派手さ」ではなく、ハードボイルドが映える
    少しうす暗い舞台を基調として、

    完全なる闇(暗転)と
    「青(?)黒くスーツが影に映える程度の薄闇」とを使い分け、
    物語自体、そして観ている観客達の心情に
    見事な「抑揚」を与えているかと。


    そして音響/BGMが素晴らしい。
    「望郷」「哀愁」その他舞台上の各場面と
    登場人物達の心象を見事に表した楽曲群(とその音の高低)、
    そして時に役者の演技というお株を奪うほどに
    「情景」を観客の心象に観せる音響効果。


    そして(無料パンフレットに載っているのですが)
    「スーツの男たち」が織りなすハードボイルドにして、
    現実世界の真実にも見えてしまう、
    ほどよく腐敗した世界(警察機構)。

    登場する人物のほとんどは
    「全くの善」でも「全くの悪」でもない、
    よく言えば中庸、ほどよく悪にも浸った連中。


    その中で唯一の「善」と呼べる刑事の行動から物語が始まり…


    潔いほどの冷酷さと、
    観客の想像力の入る余地(余韻)とを
    同時に示して締める漢(おとこ)の世界のロマンチシズム。


    ああ、何言ってるのか自分でも分かりませんが、
    とにかく「細川流ハードボイルド脚本/演出」に触れると
    自分も「かっこいい感想が言いたい、書きたい」と
    思わされてしまう(感性を刺激されてしまう)、
    そんな舞台でした。


    1点、この物語の主要人物(中庸から凶悪まで)全てについて、
    「共感できる一面」が存在する事にも驚かされますね( ´ー`)

    この「薄汚れ具合」こそ”人間”なんでしょうか

    ネタバレBOX

    【思った事】
    物語の全部を書くと長くなってしまうので、
    とりあえず思った事をポチポチと抜粋。


    ・ 会長の語る「ポリス」のそもそもの語源の話が
      会長の目的とする行動とうまく噛み合っていて良かったです。

      (詳細は忘れましたが)「統制(を取る集合体)」という意味合い?

      警察内部に犯人がいる(=統制がとれていない)状態を解決し
      更には自分の手駒として
      ドラッグ「アンジール」を管理する者として、
      「ねじめ巡査」そして「ひろき巡査」にその役が回ってきた、
      という。。。


    ・ 冒頭、警察機構唯一の良心とも言える「でと警部」が、
      死んだ「りゅう かつまさ」を見ながら
      「これで良かったんだ・・・」と。

      そこから「正当防衛(あるいは過剰防衛)」レベルで済む話をも、
      「唯一の良心」(でと)の為にもみ消そうと動く、
      「さくま巡査」達。

      そこにこの警察機構の連中と同じ程度には
      心が「腐敗」している
      「ひろき巡査(主役)」が現れてから、
      物語が動き始める。。。


      「完全な正義」ではなく、
      同じ「闇に浸った存在(ダークヒーローと言って良い?)」が
      己のプライドに目覚め、

      ・ (先輩刑事「ねじめ巡査」の仇を取り)真犯人を暴いていくさま

      ・ 悪の誘いをつっぱね、「正義」すらもみせる様

      そこに「ハードボイルド」の美学があるような気すらしました。


    ・ 各人のそれぞれの行動に共感出来る部分が本当に多いんですよね。

      ・ 中国から来た謎の男「りゅう えいめい」、
        その弟「りゅう かつまさ」は
        不良グループの幹部で自らもかなりの悪事に手を染める、
        「良心」など存在しないかのような「悪人」。

        しかし、その悪人ですら、
        ・ 兄の前でみせる本心
        ・ 故郷中国に対しての想い
        について語られる場面では、
        観劇していてつい涙腺を緩ませられてしまう。

        しかもそれは、「りゅう えいめい」がある曲を聴いている時にだけ
        現れる、今は亡き幻影(亡霊)。

      ・ ヤクザ達の悪事を見逃す代わりに賄賂を受け取る
        悪徳刑事「さくま」巡査とその子分達。

        しかし、この人の中にも「唯一の良心」である
        「でと警部」に対しての尊敬その他
        決して譲る事の出来ない想いが・・・
        (最終的には「でと警部」が本当に守ろうとしたものをも
        知っていたのかと)


      ・ 「でと警部」が隠したかった事実、
        「りゅう かつまさ」を殺した本当の犯人、
        娘婿の「石井巡査」。

        石井巡査「自分には良い妻と産まれたばかりの子供(でと警部の孫)がいる、
          そんな世界を汚す悪党など死んでしまえばいい」と、

        本当の悪人「りゅう かつまさ」を死なせる、
        この行為は自分にとっては否定できない、
        同じ気持ちが心のどこかにあるものでした。

        しかし、「ひろき巡査」に
        「りゅう かつまさの今までの悪事の数々からすれば、
        正当防衛で済んだかも知れない話だった、
        なぜその場から逃げた?」
        と質問され、
        (自分は悪くない、という思い込みからか)
        自分の思考を無くしたように
        「でと警部」が「逃げろ」と言ったから、と。

        共感出来たはずの人物は、単なる「カス」に成り下がったと・・・

      などなど、「悪人」もまた「心を持った人である」という事を
      場面場面でうまく表現し、涙腺その他を緩ませてしまうのが
      「上手いなあ」と( ´ー`)

      まさかあんな悪い連中、いかつい連中の行動の1つ1つに
      「涙要素」が隠されているとは想像も出来ません。。。


    ・ ラストが本当にかっこいい。
      真犯人の一件は「でと警部」預かりとなった後、
      「さくま巡査」の部下として今まで甘い汁を吸ってきた刑事達と
      ヤクザの子分とで、
      「でと警部の事を会長/りゅう えいめいに報告して、
      (ドラッグ)アンジールの
      売人としての権利をもらって甘い汁を吸おう」
      
      そう思った所に、ヤクザの兄貴分が現れ、
      刑事達と自分の子分を有無を言わせず抹殺していく、

      これぞ冷酷なほどの「ハードボイルド」。

      「悪」も「部下の裏切り」は許さない、という。。。


      それと対比されるかのような、
      「ひろき巡査」が国へ帰る「りゅう えいめい」と
      「会長」に対して挨拶に訪れ、

      会長/りゅう えいめい「(ドラッグ)アンジールの権利をやろう」
      と言うのに対して、
      「そんなものはいらない、警察をなめるなよ」と
      銃をつきつけられながらも飄々と語り、、、

      ~ 終幕 ~

      想像の世界ですが、
      あそこは「さくま巡査」を始めとした”仲間”達が
      突入してくる場面を想像しました。
      (中庸とした悪人である警察連中も、
      「プライド」は捨てていない、という事を見せる意味でも)

      そういう想像をさせる余地を残した意味で、
      いい「余韻」でした。


    ・ これは私事ですが、自分は
      ・ 元から期待していた作品が凡に近かった時には手厳しく
      ・ 元から期待していなかった作品が凡を超えた時の評価は高く
      とつけてしまっているようです。

      1つ前のあの作品が☆4つ、という事は
      「その時確かに思った事」なので良いとして、
      本作「アンジール」について良点を比較しても
      同列、という事はありえない。

      本来ならば☆4.5をつけたいのですが、
      指定できないので、☆5つとさせていただきました。


    ・ 本当は☆4.5で☆4つを付けたかったんです。
      理由としては、

      「アンジール(いちじく)」をタイトルとして生かすには
      ちょっとパンチが弱かったかな、と。

      ・ 犯人探しのエサとして出された「(ドラッグ)アンジール」の件に、
        「ねず巡査」その他がもっと奔走する姿が欲しかった

      ・ 「りゅう」兄弟が望郷の念にかられ、
        故郷を思い出していた場面、
        「故郷の一面に垂れたあの真っ赤ないちじくが食べたかった・・・」

      など、何か「アンジール」を強調する要素が「もう1つ」欲しかったです。


    腐敗した警察機構、汚職刑事達の「犯罪もみ消し」から始まった
    1つのハードボイルドストーリー、
    かっこ良すぎでした。

    とりあえず舞台近場で観たい、
    という事で座布団席で観ましたが、

    少し後ろの全体俯瞰できる場所で観たら、
    これまたどう展開し、自分がそれを感じとるかが
    すごく気になります。

    PS.7/3(金)夜に思い出していたのですが、
      巨悪な連中(りゅう えいめいなど)とそれに使われる形で動く
      小悪な「ひろき巡査」、
      その間にもいつの間にかなんらかの理解しあう、
      「友情」にも似た関係が産まれている事、
      これもまた「ハードボイルド」的な(敵と敵が通じ合う)
      かっこよさを持ってますよね。
      
      はっきり言っちゃえば「日本」の事を考えなければ
      「ひろき巡査」はアンジールに手を染めてしまっても、
      これまた1つのエンディングになったのかな、とも思います( ´ー`)

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    2015/07/02 23:54

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