死んだらさすがに愛しく思え 公演情報 MCR「死んだらさすがに愛しく思え」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    笑いながら凍り付く
    多くの血が流れても乾ききった荒野が、笑いの下に広がる。

    ネタバレBOX

    シリアルキラー川島の母が登場する冒頭のシーン。
    これはかなりキツいぞ、と思いつつも「MCRだしね、こんぐらいは」と観ていたが、伊達香苗さん演じる母がスカートをたくし上げ、息子の川島にそれを見せつけ、叫ぶシーンでは笑顔が凍り付いた。

    伊達香苗さんが、ダメなほうの人になり切っているのだ。
    その母性溢れる容姿とは別のベクトルへくっきりと切り替わっていた。

    この母から育てられた川島が、そうなっていくのには理解できる母とのシーンだ。
    しかし、母がそうだったからと言って、彼がそうなったのは母の責任とは言えない。
    彼の性格を形作っているのは、母からの影響が大きいとしても、それだけでは語ることはできない。
    実のところ、本当の理由がまったくわからないのが、彼の行動なのではないか。

    川島は「人を殺すことに快楽を感じているのか」と、問い掛けてみる。
    彼の相棒となった奥田は、明らかにキチガイの殺人者である。
    酷い方法で、人を殺すことに快楽を覚えている。
    しかし、川島はそうには見えない。

    彼の佇まいには、荒野が見える。
    何もない荒野が広がっているのだ。

    わずかに、彼を「お父さん」と呼び、彼が「天使」と言う奥田の妹・飛鳥と、川島が殺すことのではない男・堀が、彼の荒野に生えている貧弱な植物である。

    川島の荒野は、乾ききっている。
    彼は、血によってそれを潤すのだが、荒野は広すぎて、何十人殺しても潤うことはなく、乾き切ったままだ。
    彼は、それでも血を欲しがり、命を奪う。
    これは快楽ではないだろう。
    川島自身が命果てるまで、癒えることのない、虚しい行為だ。

    そういう虚しさを感じることは、誰にでもあるかもしれない。
    川島ほどその「渇き」が酷くないにせよ。
    もちろん殺人へ結び付くことはないにせよ。
    つまり、川島の荒野までの距離は果てしなく遠いようで、すぐ裏手にあるのかもしれない。
    そうした恐さをも描いているのではないか。

    この作品の面白さは、シリアルキラー川島のことを夢に見ている有川という男がいる点だ。
    有川は、クズらしい。
    クズの有川と川島の距離感が、私たち観客と川島という存在の距離感に等しいのではないかとも思った。
    この設定が、「なんか酷い殺人鬼いるねー」の話から、少しだけこちらに近づいてきた感があるのだ。

    それは、「夢」のようだけど、「リアル」である。
    自分にそれが近づいている感覚がある。
    クズであっても、人は殺さないという確信めいたものが有川にはある。
    しかし、夢が近づいてくることで、その境目が曖昧になってくる恐さがあるのだ。
    有川はクズなりにそれをヒシヒシと感じているから、恐いのだ。
    自分の内なる荒野がそこにあるのに気が付いているからだ。

    いつものごとく、全体的に笑いが多く散りばめながらも、今回は特にゾクゾクするような気持ち悪さがあった。
    MCR、さすが。
    作・演の櫻井智也さんさすが(本人の、あの台詞回しも好きなんだよね)。

    川島を演じた川島潤哉さんが、何かが抜けきったような佇まいが荒野を感じさせた。
    そこをやりすぎると、単なる演技になってしまうから。
    母を演じた伊達香苗さんは、本当に恐い。見事な醜悪ぶりだ。
    ただ、叫ぶ台詞が聞き取り辛いのが難点。

    川島の相棒・奥田を演じた奥田洋平さんは、川島と明らかに違う狂った男を演じていた。
    川島の天使・飛鳥を演じた後藤飛鳥さんは、インノセントな感じで、宗教をも感じさせ、静かにどこか狂っているような佇まいがいい。

    どの舞台でも、抜群の突っ込みを見せる堀さんは、突っ込みはもちろんあるが、川島への苛立ちが感情的にほとばしることで、川島との対比を見せ、さらに堀さんが持つ人間的な世界が、川島の唯一のこちら側との窓に見せてくれた。
    有川を演じた有川マコトさんには、あまり多くを語らせないが、さぞクズな人なんだな、と思わせる。
    施設の人たちの気持ち悪さも、いい。

    0

    2015/06/13 18:45

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大