零度の掌 公演情報 May「零度の掌」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    血と現実
     これまでアイデンティティーの危機についての作品を発表して来たMayの新境地。作・演出の金 哲義氏の実体験に基づく、北朝鮮のドキュメンタリーになっている作品だ。日本では伏せられている情報を含め、理解されたいという個人的インセンティブより、寧ろ時代の変遷に追い立てられるようにして生きている世界中の人々の今を浮き上がらせて鮮烈である。(少し追記2015.3.28)
    May作品の凄さは、登場する人物達が、それが常にあり得べき何かとして描かれたり、人工的な型として描かれるのではなく、怪我をすれば血を流す生身の人間として描かれていることだ。(更に少しネタバレに追記2015.3.29)

    ネタバレBOX

    作・演出の金 哲義氏が、これまでアイデンティティーの危機について書いてきたことは既に述べたが、これは、在日として生きることが如何なることかということでもあった。即ち、二世、三世、四世になれば、ハングルができない。然し日本語はできる。が、日本では朝鮮・韓国人と見られ、祖国へ戻ればそうは見做されない。下手をすればスパイ扱いされて拷問の上、刑を科されるということが起こってきた。然し、自らの内的整合性と暮らす社会での整合性は取れず、何時までも存在の不如意をかこつことになる。という現実が、一方で深い日本文化へのコミットという形で現れていた。今迄のMay作品発表時の演歌・ポップス等の選択眼の確かさは並みのものではないことをみてもそれは自ずと知れるのだ。少し大げさに聞こえるかも知れないが、彼はある意味、日本人以上に日本人である。だが、その心の軋み、魂の軋みは筆舌に尽くし難いものであるだろうし、彼の若い時は、気も狂わんばかりであったであろう。そのような彼の痛みによって、彼のシナリオには、生の活力が付与されており、在日日本人役者達の、自分自身に対する真摯な問い掛けが、人間を表現する厚みに繋がっているのだ。その生の表現への厚みは残したまま、アイデンティティーの悩み自体が、限りなく薄められ、意味そのものに疑いを差し挟まなければならない、と感じさせるほどの変化が北朝鮮に起こっている可能性がある、ということを感じさせる今作、29日13時は、東京公演の楽日だ。是非、もう一度見ておく。

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    2015/03/27 12:28

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