黒塚 公演情報 木ノ下歌舞伎「黒塚」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    歌舞伎の「骨」はあくまで残す。/約95分
    劇団初見。
    歌舞伎を現代風に変えてはいるが、骨抜きにはしていない。
    この点が、木ノ下「歌舞伎」を標榜するこの団体の味噌だと思った。
    口語的セリフやイマっぽい趣向を盛っても、歌舞伎の「骨」すなわち構造は残してあるので、歌舞伎固有の構造が生み出す緊張感は息づいており、とても見応えがある。

    崩し方にこのようなこだわりがなかったならば、本作は歌舞伎を原作として用いただけの凡庸な劇に終わっていたことだろうし、こりっち舞台芸術まつりでグランプリに輝き、今回このような形で大々的な再演ツアーが組まれることもきっとなかったに違いない。

    ネタバレBOX

    東北の老婆の家に泊めてもらった修行僧の一行が、老婆が出かけている隙に禁を破って寝屋を覗いてしまい、死体の断片がゴロゴロしている部屋の様子から老婆が食人鬼であると悟り、裏切りを知った老婆の怒りを買うお話。

    本作の演出家・杉原邦生さんと監修者・木ノ下裕一さんによるアフタートークによれば、正統的な歌舞伎の演目としての『黒塚』は勧善懲悪的なお話らしく、修行僧一行が“善”、老婆が“悪”とはっきり区別されており、木ノ下歌舞伎版とはかなり趣を異にするという。

    一方、木ノ下歌舞伎版では、老婆が食人鬼と化したやむにやまれぬ理由が判る回想シーンが足されており、老婆がつらすぎる体験をして気が狂い、人を食らうようになったのだと説明される。
    すなわち木ノ下版において、老婆は絶対悪ではなく、同情の余地ある哀れな人物として描かれ、片や、自らの罪深さを悔い地獄行きを恐れる老婆に「仏に帰依すれば罪は赦される」と説く修行僧一行は、寝屋を覗いた破戒行為をもってその善良性に疑問が投げかけられる。

    私は、老婆をただの化け物でなく、悲運に翻弄された“憐れむべき一人の人間”として描いている点に大いに感じ入ったし、一行との戦いに敗れた老婆に一行の一人が黙祷を捧げるひと幕には胸を衝かれた。
    老婆は食人という大罪を犯してはいても、罪を犯した背景には同情に値する事情があって、だからこそ一行の一人は、つらい人生を生き抜いた老婆に敬意を表して黙祷を捧げたのだ。

    だからこそ言うのだが、なぜ老婆は、仏への帰依により食人の罪も赦されないものだろうかと僧に相談しなかったのか?
    この点が私には釈然としなかった。
    老婆の為した罪が食人だとは知らずに仏教への帰依を進めた僧は、「食人は例外!」と一蹴したかもしれないが、老婆の為した食人が不可抗力だったことを強調するためにも、上の質問は為されても良かったのではないだろうか?

    この違和感が、本作に5つ星をつけることを私にためらわせた。

    5つ星をつけなかったもう一つの理由は、裏切った一行への憎しみを舞などを交えつつ老婆が表現するシーンが長すぎたこと。
    引っ張るからこそ怒りの強さは伝わるのだろうが、“もう充分! 怒ってるのは分かったから!”とこちらが思ってもシーンは終わらず、ちょっと食傷してしまった。

    罪が赦されると知りいったん歓喜の極みに運ばれた老婆を、一行を演じた4人が役柄を離れラップによって寿ぐくだりが印象的でした。

    0

    2015/03/23 07:19

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大