黒塚 公演情報 木ノ下歌舞伎「黒塚」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    すごい舞台
    初演を観ていなかったので、再演ツアーをとても楽しみにしていた。
    いやー、超面白かった。
    表現形式の垣根を取っ払った面白さ、豊かさに満ちている。
    歌舞伎の所作の美しさ、声の響き、そして高い身体能力を生かした舞踊が素晴らしい。
    歌舞伎の様式美が生かされる部分と、庶民性や人間臭さが現代口語で語られる部分、
    それらが的確に選択されていて、その結果鬼の心情が際立つ舞台になった。
    歌舞伎の舞台を完コピ稽古してからクリエイティブ稽古に臨むという二段構えの稽古に納得。
    笑いながら聴いていたが、情報満載で充実のアフタートークも秀逸。
    帰宅して思わずyou tubeの完コピ稽古を全編観てしまった。
    木ノ下歌舞伎、これからずっと観ると思う。

    ネタバレBOX

    むき出しの平台を重ねたような舞台が対面式の客席に挟まれている。
    やがて私たちが入って来たドアから修行僧の一行3人と案内人1人がやってくる。
    道に迷って一夜の宿を探し求めていた彼らは、やがて一軒の家にたどり着くが
    そこは食人鬼が住む家だった…。

    「安達ケ原の鬼婆」の話は子どもの頃に読んだことがあるが
    それは善(僧侶)と悪(鬼婆)の対決の話であった。
    鬼婆が食人鬼となったいきさつを加えたことによって、鬼は単なる悪ではなく、
    追いつめられた人間の哀しい過ちの果てであったことが伝わって奥行きが出た。

    出て来ただけで怖い老婆が、時に素早く動いたり、糸車を回しながら歌ったり、
    (中島みゆきの「時代」には笑った♪)
    僧から「仏を信じれば罪は赦される」と聞いて涙ながらに喜んだりと、実に表情豊か。
    この老婆が薪を拾いに行った山で過去を回想するシーンが挿入されている。
    都で高貴な家に乳母として仕えていた老婆は、理不尽な命令で
    各地を彷徨ったあげく、東北の福島・安達ケ原へと流れつく。
    そこで知らなかったとはいえ、生き別れた実の娘とその腹の子を殺してしまい
    気が狂って人の世を呪い食人鬼となったという、彼女の慟哭の場面が胸に迫る。

    歌舞伎のストーリーに能の舞、そこに人情噺を加えたのが木ノ下歌舞伎の「黒塚」だ。
    歌舞伎の台詞を再現する老婆に対して現代口語の旅人、着物の老婆にイマドキの旅人、
    歌舞伎の動作をふんだんに取り入れたダンス、丁寧に取り入れた能の舞…。
    伝統芸能を継承するには様々な方法があると思うが
    「黒塚」は全てのバランスが絶妙で、その結果まったく新しい舞台が出来上がった。
    “古典が際立つ”という意味において、単なる“いいとこ取り”を超えている。
    しかも鬼の事情が語られることで、その後の彼女の喜びと怒りが
    リアルに浮かび上がる。

    役者陣の熱演が素晴らしく、歌舞伎を完コピした成果が随所に表れている。
    老婆役の武谷公雄さん、この方の舞台を観るのは3回目だと思うが
    いつも挑戦し続け、変化し続けるところがすごい。
    今回もその所作、手の動き、杖の扱い、感情表現のメリハリ、すべてが感動的だった。

    一行の中でガイド役を演じた北尾亘さん、その身体能力と圧巻の舞踊センスで魅了する。
    懐中電灯を使ったアイディアなど、照明の工夫と美しさに目を見張るものがあった。

    木ノ下さんってどんな人だろうと思っていたら、「黒塚」初演当時28歳だったというから驚く。
    あの若さで古典に精通し、というより古典の良さを愛し受け継いで行こうと考える
    そのことに敬意を表したい。
    アフタートークで演出・美術の杉原氏と語る様子を見ても、
    大変良いコンビであることが分かる。
    これからもお二人の監修・補綴、演出・美術が生み出す作品に注目していきたい。
    こういう新しい表現に出会うのが芝居を観る楽しみであると改めて実感した。





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    2015/03/18 01:16

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