満足度★★★★★
猿の地平で考える
現代の演劇界で、僕ら一般人の目線をもって、世界を表現できる人は、平田オリザさんだけかもしれない。
「森の奥」は、ベルギー王立劇場の依頼で、オリザさんが書き下ろした作品。完全な「乱交型」コミュニティを作ることで知られる、もっとも人間に近いと言われる類人猿、ボノボについて語る研究者たちの姿の向こうに、僕らをとりまく、地球規模の、人の世界がみえてくる。
「他者」をめぐる、ともすれば、高いところから見下ろす形になってしまいそうな題材が、オリザさんの、どこまでも自然な言葉と、ベルギーの俳優たちの、演技を忘れたような演技に、僕ら市井の人々の目線が込められて、ごくごく当たり前にしみ込んでくる。
感情が大きく揺れ動いたり、全く新しいものに触れたりということのない、地味な舞台。でも、ここは、喜怒哀楽から始まる、深い思索への、とても自然な入り口。僕は、この貴重な公演を、心から楽しんだ(できれば、もう一度観たい)。