悲しみよ、消えないでくれ 公演情報 モダンスイマーズ「悲しみよ、消えないでくれ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    誰が悲しみを理解できるのか。
    派手さがないのに、ここまで引き込まれる芝居はあまりなく、個人的には圧巻だった。

    ネタバレBOX

    <あらすじ>
    杉浦寛治(でんでん)が経営する雪深い山荘。
    2年前、麓で起きた土砂災害で長女・一葉を失い、
    今は次女・梢(生越千晴)と
    一葉の恋人だった新山忠男(古山憲太郎)と暮らしていた。
    そして梢が家を出て行く前日、
    お別れ会の準備のため、山荘の荷運びしている
    阿部友之(津村知与支)と陽菜(伊東沙保)夫婦が出入りする中、
    一葉を偲ぶため、新山の大学時代の山岳会仲間が山荘にやってくる。


    作りこまれた山小屋の客間の美術が良い。
    コの字型で三方向に客席が構えられ、客席からの距離が遠くない。
    一番遠い正面の後方から俯瞰するように観ていたが、
    それでも遜色なく楽しめた。

    個人的に何度か東京芸術劇場のシアターイースト、ウエストを訪れた中で、
    通路を潰してできた桟敷席に当日券のお客さん達が
    目一杯埋まるのはワクワクした。

    自然な現代口語形式の会話劇で同時に会話が発生したり、
    ぼそっとしゃべる声や小さな音が多少聞きづらいこともあったが、
    それで面白さ、魅力を損なうことなく集中して観た。
    大事が起こる派手さはなくシンプルながら、とても見応えがあった。

    全編を通じて笑ってしまう場面があるのも、飽きない。
    でんでん演じる寛治の掴みどころのない飄々とした様など
    挙げたらキリがない。

    他では例えば妻にDVをしていた友之が
    ある場面では最も的を得た台詞を言ったりする。
    問題によって各登場人物の立ち位置が切り替わるのが、
    ごく自然でそれが面白さを引き立てる。

    ・なぜ新山は一葉の実家にいるのか。
    ・なぜ梢は山を下りるのか。etc.

    そういった疑問、登場人物各々が抱える問題や秘密が
    新山と陽菜の不倫を友之が暴露することで、
    数珠繋ぎに発覚していき関係が崩れていく。
    張りつめたサスペンス的要素よりも、
    それこそ前置きのない暴露などによって
    じわっとありふれた空気がいつの間にか変わる様に見入っていた。

    作・演出の蓬莱竜太さんの
    「亡くなった方を大事に扱わなければいけない、
    そういった命のタブーに挑んだ」という旨の内容が
    当日パンフレットに書いてあった。

    このタイトルにある「悲しみ」とは
    「亡くなった者を悼むこと」だろう。
    だがそれが消えたり、無くなったりするのは、
    ある意味では自然なことだと思う。
    忘れてしまうことは悲しいが、
    悲しみにいつまでも囚われているのもどうなのか。
    これは新山以外の人間、
    劇を観ている観客も含め一般的に持っている感情だろう。

    ただ今作でいう「悲しみ」は、
    一方では、新山の今の安穏とした生活を保障するもので、
    無くなるとその生活は破綻してしまう。
    他方では、あくまで徹底的に優柔不断でダメ男の新山が、
    それでも一葉を好きだったという気持ちを
    忘れずに悼むことも含まれているように思えた。

    だが彼が徹底的にダメであるが故に、
    不器用に言い表せない(一葉が好きであるという)感情は、
    誰にも理解されず、否定されてしまう。
    人は情けないが、情けないままでいれないのも
    事実というのが残酷に伝わってくる。

    そんな新山ですら、その存在が
    寛治にとって実は支えになっていたことが分かるラストは
    心に残った。

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    2015/01/30 23:10

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