タコの娘 公演情報 ハイブリッド渾沌「タコの娘」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    聖史劇

     男に振られた祖母は、やけ酒を喰らって浜辺で寝てしまった。然し、満潮の海で溺れてしまった。それを助けたのがおじいちゃんであった。二人は恋に落ち、母を産んで育てた。

    ネタバレBOX



     物語は、この母子の思い出として語られる。異種婚姻譚という不合理や、蛸の擬態が、単に体色を変えたり、海底の地形に合わせて体型を変えるに留まらず、人間に擬態するという非科学性もオープニングの時点で指摘して、科学的には好い加減であることを明かすことによって物語に引き込んでいるシナリオも良い。
     さて、話は、タコとのハーフだと、母が子供時代に苛められたことや、孫娘のアイデンティティー問題等様々なエピソードを孕みつつ展開してゆくのだが、祖父は、余り器用とは言えない営業マンとして家計を支えながら、緊急の出費や家計の危機には、自らの足を切り売りして凌いでいた。彼の足は、最高級食材として極めて高価だったのである。だが、祖母が、母を産んだ時、マイホーム購入、娘の学費等々で祖父の足はどんどん少なくなっていった。それでも祖父は常に笑いを絶やさず、生きていりゃ何とかなる、というのを母がモットーにする程に優しく逞しい生き方を貫いていた。
     母は、海へ帰りたいであろう父を慕いながら、生きて来て、矢張り、海外から出稼ぎに来ていた人と結婚した。彼は家族の為に、腎臓を1つ売って暮らしの足しにしていたのだが、それでも間に合わず、日本に出稼ぎに来ていたのである。祖父は、結婚費用と孫の出産費用の為にも、また足の数を減らしてしまった。だが、孫娘が3歳になった時、出稼ぎに来ていた父は、故郷の借金で首が回らず、夜逃げしてしまった。
     以降、母は、足が1本になって、殆ど寝た切りの父と幼い孫娘を抱えてストリッパーに転身した。全国を旅して回りながら、裸を晒すことと、全生命の故郷である海との連関に気付き、性を梃子に俗と聖を繋ぐ自らの在り様に意味を見出しつつあった母は、寂しい男たちに人気を博すようになってゆく。大した金はないけれど、それなりに幸せな生活を送っていた彼らに大きな試練が訪れた。孫が、大病に罹ったのである。多少、人気のあるストリッパーの稼ぎで足りる額ではない。ストリッパー仲間も手を貸そうとするが、とても手に負える額では無かった。祖父が、最後の一本を売ったのは、そんな経緯を知ったからである。その1本で殆ど何でもこなし、存在の誇りを守る最後の砦となっていた1本を祖父は孫娘の為に売って命を閉じた。
     成長した孫と母は、最後に残った祖父の頭部を海に戻す。
     キャストが格好良過ぎない点がグー。普通の人が、普通の生活をする為に、どれだけの苦労をし、その生活を支える為に、どれだけの者が、自らを犠牲にして、それらを支えているかを示しているからである。物語の中で、祖父が足を売る時、母もまた、愛娘のオペの為に、自分の腎臓を1つ売る覚悟をしている。それを実現せずに済んだのは、祖父がいち早く、自らの最後の足を売って金を作ってくれたからである。
     先にも少し触れておいたが、ストリッパーになった母は、秘所を晒して見せることで、胎児が其処で漂う子宮と羊水、海水の類似性を指摘して性・俗と聖性を同一視して見せた。無論、聖俗の一致は、今迄にも多くの知識人が指摘してきたことではあり、珍しくは無いかも知れない。然し、このように小さな劇場で、このような聖史劇が演じられることにこそ、意味があるのである。このような意味で、良く寝られたシナリオにマッチした演出、演技であった。中島 みゆきの“ファイト”が、実に効果的に使われていた点もグー。

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    2015/01/13 15:28

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