福島真也×ブラジリィ―・アン・山田「酔いどれシューベルト」 公演情報 劇団東京イボンヌ「福島真也×ブラジリィ―・アン・山田「酔いどれシューベルト」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    今作で、更なる雄飛も期待できる
    音響効果は兎も角、舞台で使われる音楽は生。ピアノ、打楽器、弦楽器、木管、金管など、技術体にもレベルの高い音楽スタッフの演奏に合わせて、オペラ歌手達が、歌う、演劇とのコラボレーションである。これからの更なる伸びに期待しているので、少々、厳しく★は4つだが、伸びシロ大。演劇好きにもオペラ好きにも楽しめる。無論、クラシック好きにも。(追記2014.10.10)

    ネタバレBOX

    序盤、役者にちょっと、音楽陣に気押される場面が無いでもなかったが、追々、良くなってゆこう。芸術の中で最も、数学的な音楽家と最も身体的な役者との闘争の場でもあるから、互いにその辺りは頭の片隅に入れておいて貰いたい。
     何れにせよ、作者が悩み乍ら作り上げた、一曲に集約する方法というのは、型としての普遍性を持つ。今作ではそれが”セレナーデ”ということになるのだが、この曲を中心に据える為に、物語は書かれ、他の名曲もセレクトされた上で歌われているのである。それも、生演奏を伴奏にしたオペラ歌手の歌で。音楽好きにも演劇好きにも堪らない。
     無論、ジャンルは異なっても、舞台上で演じ、歌い、演奏するのは、総て、プロの表現者たちである。そして、本物の表現者が、一様に持つ願いは、共通している。それは、一篇でも一行でも良い。自分の表現が百年後、千年後にも、矢張り、人の心を打つことである、表現する者は、何も、時代の偏見との戦いや、政治的イデオロギーや自由だけを追求しているのではない。矢張り、人々の心を撃つ作品作りを目指しているのだ。それえが、千年、2千年後のまるで違う文明の下でも生き抜いて居てくれることを。即ち、彼らは永遠と闘っているのだ。
     今作に戻ろう。今一度、言っておくが、真の表現者にとって、自らの創作が、例え1行の詩にせよ、一篇の曲にせよ、千年の時を越え、場所も越えて人々の心を鷲掴みにすることこそ、望みである。だが、シューベルトは歌曲だけで600曲を超える。その他に交響曲8曲、弦楽四重奏、ソナタなどを残した。31歳で他界するまでに編んだ曲である。無論、並大抵の数でないばかりか、その叙情性に富んだ曲想と多様なイマージュで初期ロマン派を代表する音楽家だが、生前は、今作でも描かれているように、一部に高い評価を与える者が居たとはいえ、長く不遇の時代を過ごした。それも、高い評価を与える者からは、ベートーベンの後継と目され乍ら、世の多くからは理解されなかったのである。その埋もれかけた才能を陰ながら支え、愛したのが、幼馴染でもあったクラウディアだ。無論、シューベルト自身も彼女を最愛の人とし、自分が売れた暁には結婚するつもりであった。然し、彼女には、病身の父と幼い弟、妹があり、稼ぐことができるのは彼女だけであった。而も、彼女は、成り金のバロンから結婚を申し込まれてもおり、生活の為に、いつ売れるとも分からないシューベルトとの結婚を断念する。彼女の窮乏は短い間ではあったものの、街に立つほどのものであったのである。
    一方、シューベルトは相変わらず、彼の才能を正しく見抜いた酒場のマスターの温情もあって飲んだくれていたが、終に彼の才能を評価し、楽譜を出版してくれる者まで現れて、クラウディアに指輪を贈ろうとするが、時既に遅く、彼女は、バロンのもとに嫁いだ。こんな時、ハプスブルグ家大公の娘、エリザベスが、彼の曲を聴いてファンになり、場末の酒場に訪ねて来る。これをきっかけに貴族からも評価を受けるようになったシューベルトであったが、書いても書いても売れない彼の曲への世間の冷遇は、彼の精神を追い詰め、終には、バロンがふともらした「金持ちになる秘訣は、悪魔に魂を売ることだ」との言葉の暗示もあり、売れる曲の為に、1曲につき寿命1カ月を悪魔にさし出す、という契約に結実する。従って、シューベルト自身には、自らの作品が悪魔というゴーストライターによって書かれたものとの認識が生まれ、才能の無さを嘆くことになるが、そんな彼が、たった1曲、本当の自分が書いた物として、永遠の恋人、クラウディアに捧げたのが、この“セレナーデ”だというのがイボンヌ流解釈である。
      彼は、死期をさとったのだろうか? 何れにせよ彼の幻想に現れた天使に、クラウディアとの逢瀬を願った。それが叶えられると、クラウディアの為に作った“セレナーデ”を捧げるが、クラウディアは、言う。彼に現れた、悪魔も天使も彼自身なのだ、と。このお告げは、彼の苦悩故に分裂した魂をアウフヘーベンする。当然のことながら、世知辛い世にあって、果たせなかった二人の愛も、求め会う念も、純粋な形のまま天上の愛という永遠に結実。彼は、呼吸を止めた。通い慣れた酒場のカウンターで!

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    2014/10/09 11:53

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