満足度★★★★
鍛えよう!世間知らず力
『祀』は吉祥寺の森に住む「七福神」が題材だ。そして、千秋楽後、商店街のアーケードから 聴こえたのはもう一つの賑わう『祭』だった。
あれは幻想郷か。まるで宮沢賢治の童話世界であり、スタジオジブリの新作映画である。鬼色に光る提灯が均等を保ちながら整列する。その下、境内の砂利道では、町内会が加入率を取り戻そうと躍起だ。太鼓サウンドに連動したいわゆる「盆踊り」をエンドレスに感じるのは気のせいだろうか。
明治学院教授・原 武史さん の新著『知の訓練 日本にとって政治とは何か』が新潮新書より刊行された。世間的には無名に等しい学者だが、「解説書」ではない、キャンパスの「授業風景」を収録した同著を大手出版社が刊行したのである。「日本のサンデルだ…」。そう新潮社担当者が考えたのかは定かではないが、「白熱授業」のコピーを帯につけるほど「今イチオシの人物」だ。
私は 原 教授の講義を受けたことがある。法政大学・市ヶ谷キャンパスに 潜り込み、建築学科生を対象とする「空間政治学」の 実践理論を聴いたのだ。「ちょっと、寝てる奴、寝てる奴 がいるじゃないですか。もう少し、建築だけじゃなく、専門外の政治にも興味を持った方がいいですよ」
原 教授は 法政大学生の態度にプンプンだった。ただ、自ら団地組合の資料を集め分析したという「現場主義」で、新社会用語「団地コミューン」を一部に浸透させた学者だ。講義はおもしろしい。「団地から戦後の55年体制、ひいては米ソ冷戦までを包括的に理論化する」アプローチは異端児でもある。
原 教授が新著で明かした「知の再発見」は「祀=政」である日本原論だ。2012参院選だと環境新党が「選挙フェス」PR作戦を展開し、この国の議院内閣制を一言「まつりごと」に置き換えていた。このニュアンスは、朝廷による常備軍(国軍)廃止と期を一にして武家パワーが軍事的権力を手にする西暦800年以前のレジーム構造だろう。
前置きが長くなったが、劇団め組『祀』は七福神と江戸幕府の二重「まつりごと」を、その安定した演技で顕在化したように思う。
お正月の薄型テレビが茶の間に放送する『七福神』ではない。
茶髪だったり、凛々しかったり、カダフィ大佐のような「強面福神」もいる。しかし、パロディーでもない。
それは「幸せ」の仲間達だった。
※ネタバレ追記あり